2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25370863
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
吉田 浩 岡山大学, 社会文化科学研究科, 准教授 (70250397)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 農奴解放 / アレクサンドル2世 / コンスタンティン大公 / エレーナ・パーヴロヴナ大公妃 |
Research Abstract |
本年度は、ロシア農奴解放について、そのきっかけとされるクリミア戦争敗北のインパクトが皇帝アレクサンドル2世に与えた影響について重点的に調査することで、ロシア農奴解放の性格を明らかにしようと試みた。モスクワのロシア国立文書館でアレクサンドル2世の1856年1月-3月の日記を閲覧したところ、農奴解放に関する言及はクリミア戦争とは関わりのない文脈において1回のみであった。 また、1856年3月に皇帝がおこなった「農奴解放は下からおこるより上からおこなった方がよい」という演説の意図を調べるために、皇帝に直接的な影響力を与えうる人物である弟のコンスタンティン大公と叔母エレーナ大公妃について文書館史料に基づき調査した。その結果、1856年の時点で前者はまだ農奴解放の重要性に気づいていないことが明らかになった。また、後者は自らの領地での農奴解放の試みを皇帝に誓願したが拒絶されたと従来はみされていたが、請願書本文およびそれへの回答文書を閲覧したところ、後に実現する農奴解放にかなり近い提案がなされていたこと、および皇帝の肯定的な反応を読み取ることができた。また、これらの文脈ではクリミア戦争に関する言及は全くなかった。 さらに、文書館における史料調査の結果、前帝ニコライ1世の時代にかなり政府上層では農奴解放に関するさまざまなプランが検討されていることがわかったが、時間的制約のために今年度は史料状況の調査にとどまり、内容の解読については次年度の課題となる。 なお、本研究は皇帝アレクサンドル2世の人物研究という性格も兼ね備えているため、文書館に保管されている皇帝の食生活に関する資料も合わせて収集した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の課題は1.農奴解放のきっかけは何であるか、2.実現された形で農奴解放がおこなわれた理由は何か、3.農奴解放に先例となる改革はあったのか、という3点である。それぞれについておおむね順調に成果が得られた。具体的には以下のとおりである。 1については、クリミア戦争以前から農奴解放にかかわる様々な提案が政府上層で検討されていることがあきらかになることで、大改革を「19世紀ロシア史」の中で連続の相としてとらえるという目的を達成しつつあるといえる。 2については、重要な鍵となるのが土地なし解放案から土地付き解放案への変化である。土地付き解放案が農奴解放プランの当初から皇帝に重視されていたことはエレーナ大公妃の誓願への回答で明らかになった。しかし表向きには土地無し解放が唯一公表されたプランであり、1858年秋以降に土地付き解放案への方針変更がおこなわれた。その原因は銀行危機やエストニア反乱にあることが本年度の研究から推定されるが、史料的な裏付けは来年度の課題として残される。 3については、農奴解放の先例的な改革である1838-39のキセリョーフ改革の責任者であった国有財産大臣キセリョーフが農奴解放についても提案をおこなっていたこと、1840年代に帝国西部おこなわれた土地台帳改革や自由耕作民(1803年)、義務的農民(1842年)制度の導入が農奴解放実現の形式の一つとして政府上層で検討されていたことが明らかとなった。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後については1.初年度の研究で不十分であった点、2.初年度の研究で新たに浮かび上がった問題および3.従来から計画していた課題について検討することとなる。具体的には以下のとおりである。 1についてはアレクサンドル2世が農奴解放の実施を決心し、実現の形態についてどのように考えを変化させたかについて引き続き皇帝の日記の解読により調査をおこなう。 2についてはニコライ1世時代末期における農奴解放案の検討である。従来にもその存在については語られていたが、具体的史料に基づき検討されることなく、ニコライ時代における農奴解放審議は形式的なものであったとされていたが、文書館には検討するに値する史料が保管されていることがわかったので、可能な限り史料を収集してどこまで具体的に、どこまで本気で審議されていたのかを明らかにする。 3については大改革における農奴解放以外の改革がどのような思想に基づきどのような勢力によって推進されたのかを研究することでニコライ1世(後期)、アレクサンドル2世、アレクサンドル3世の時代をひと続きとして近代ロシアの形成期としてとらえなおすことである。この点については従来の計画に基づいて研究をおこなう。
|
Research Products
(1 results)