2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25370863
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
吉田 浩 岡山大学, 社会文化科学研究科, 准教授 (70250397)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 農奴解放 / ロシア大改革 / アレクサンドル2世 / コンスタンティン大公 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、ロシア大改革の要となる農奴解放について、前年度に続いてそのきっかけ、解放令草案の進化の過程、および農奴解放と大改革の相互関係について考察した。研究のための主要な史料としてモスクワのロシア国立文書館で、アレクサンドル2世文書と皇帝の弟であるコンスタンティン大公の文書を調査した。皇帝が農奴解放を決意するに至るきっかけおよび農奴解放案の進化については1856年10月に皇帝の叔母から提出されたカルロフカ解放案についての文書を前年度に引き続き再検討し、皇帝がその提案を拒否したことから、初期においては土地付きでの解放が全く考えられていなかったことが明らかとなった。 さらに、コンスタンティン大公文書の史料調査により従来見過ごされてきた解放と国庫の関係についての史料(Ф.722-1-278)を発見し、銀行家に依頼して農奴解放にかかる費用の計算がおこなわれていたこと、解放を国が発行する証書を通じておこなう方法を用いることでクリミア戦争の敗北や銀行危機による国庫の危機的状況から脱することが模索されたことも明らかとなった。 さらに、1850年代の史料から、キセリョーフ国有財産大臣や後に大改革時代の指導者となるミリューティンやゴロヴニンによる農奴解放の提案文書を発見し、その解読により農奴解放がクリミア戦争をきっかけとしておこなわれたのではなく、戦争前から継続してその準備がおこなわれていたという仮説をもつにいたった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度の課題は1)農奴解放のきっかけは何であるか、2)実現された形で農奴解放がおこなわれた理由は何か、 3)大改革と農奴解放の関係はどのようなものであるか、である。1)と2)についてはは前年度からの継続課題であるが考察を次のようにさらに深めることができた。つまり、従来クリミア戦争の影響が大きかったとされてきた定説にたいし、ニコライ1世の時代から農奴解放実現のための実務的諸作業がおこなわれていた事実によりそれが成り立たないことを明らかにしたこと。初期には屋敷菜園地のみの買戻しという方法による農奴解放が考えられていたのにたいし、クリミア戦争や銀行危機による国庫残高の急速な減少という事実が新たな方法の模索へと導き、銀行家による農奴解放実現費用の計算などにより国家を介した償却による耕地買戻しという実現された農奴解放へ至ったという筋道を史料的に裏付けることができたこと、である。3)については、大改革はクリミア戦争の敗北を受けて国家的危機から脱するために経済的諸改革と共に農奴解放がおこなわれたと従来は理解されてきた。しかし本年度の研究により、経済的諸改革はクリミア戦争の敗北と直接的関係があるのにたいし、農奴解放は少なくともその初期案は論理的に全く関係がなく、むしろさらなる危機を生み出す可能性があることが明らかとなった。つまり、ニコライ1世時代から準備された農奴解放が、「たまたま」クリミア戦争後に熟し具体的検討が進められ、さらにその過程で生じた銀行危機が実現された農奴解放をもたらし、その内容が司法改革、地方自治改革など大改革を将来したという仮説をもつにいたった。 ただし、アレクサンドル2世の日記解読が遅れたため、研究論文の完成に至らなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は最終年度であるので、研究のまとめをおこない、学会発表および論文の完成につとめ、以下の作業をするめる。 1)農奴解放のきっかけとされる1856年3月30日の皇帝演説が出される状況を明らかにするために、既に収集したアレクサンドル2世の日記の解読をすすめる。 2)1840年代以降の大臣や官僚による農奴解放草案の史料の収集と解読。 3)実現された農奴解放の内容がゼムストヴォ改革や司法改革などを必然化させ、大改革というさらに大きな改革として共通性をもつに至った原因の究明。
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