2013 Fiscal Year Research-status Report
職業技術教育の社会的機能とジェンダー――帝政末期ロシアの教育と社会
Project/Area Number |
25370870
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
畠山 禎 北里大学, 一般教育部, 准教授 (60400438)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 近代史 / ロシア / 教育社会史 / 職業技術教育 / 社会階層 |
Research Abstract |
平成25年度は、男子職業技術学校について社会化や人材配分といった社会的機能を見極めるために、卒業生の就職先や職歴を追跡することを研究課題とした。加えて、この課題を遂行するための予備的作業として、在学中の人材選抜、すなわち卒業者・退学者数の構成や退学理由、退学と社会階層との関連性も考察した。新たに得られた知見は以下のようにまとめられる。 第一に、職業技術教育の拡張が初等教育修了者に新たな進学先を提供したものの、教育現場では退学者が多数発生していた。その原因は生徒の成績不良や準備不足だけでなく、最低限の知識や技能を習得することだけを目的とし、卒業を待たずに退学するという生徒側の独自の教育戦略にもあった。ロシア技術協会付属手工業学校の事例によると、卒業者・退学者の間で社会階層の偏りは縮小していった。 第二に、職業技術教育機関の卒業生は主として専門領域に関わる職業に就いていた。ロシア技術協会付属手工業学校の事例を参考にすると、卒業者の多くは専門領域内で転職を繰り返し、個人差はあるものの職位や収入の上昇を実現していった。とくに、成長著しい鉄道業が卒業生の就職先の一つになった。その一方で、卒業者の一部は官公吏や教員、商業従事者など、専門とは関連性の小さい相対的にステイタスの高い職業へ転職した。 このように、職業技術教育が下層出身者に初等後教育の機会を与えるとともに、社会的出自が卒業・退学の主要な規定要因とはならない状況が作り出されていた。卒業者は学校教育をつうじて知識や技能を獲得し、学歴をもとに就職し、社会的上昇を果たすことができた。退学者も学校で得た最低限の知識や技能をもとに相応の職を得ることができた。職業技術教育はロシアの工業化を直接・間接的に担う人材を養成するとともに、下層出身者の社会的上昇の機会を拡大させ、社会階層の再編成を促進していたのである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究の目的」の達成度を「おおむね順調に進展している」と評価した。その理由は以下のとおりである。 第一に、職業技術教育機関における在学中の人材選抜、すなわち卒業・退学について、ロシア国内全般のレベルで卒業者・退学者の構成と退学理由を概観し、その上で個別の学校レベルで卒業・退学と社会階層の関係性を掘り下げて検証することができた。考察から、卒業者が技能や学歴を獲得することで社会的上昇の足掛かりとしただけでなく、退学者も一定の技能を身につけて相応の就職先を得ていたこと、生徒の出身階層の重心が下方へと移行するなか、学校での選抜における社会階層の偏りの縮小したことが明らかになった。しかし、各社会層の卒業・退学の選択行動とその変容プロセス、学校の教育活動、生徒の成績と社会階層との関連性など、未解明の問題も残されている。これらの論点については将来的に補足的な調査を実施したい。 第二に、学校教育の人材社会化機能や配分機能を測定する目的で、国レベルで卒業後の進路を確認した。さらに、ロシア技術協会付属手工業学校の卒業者を対象としたアンケート調査史料を手がかりに卒業後の職歴を追跡し、転職とそれをつうじた社会移動と空間的移動の大まかな傾向を把握することができた。同史料からは、卒業者が学歴や学習内容を生かして産業発展に寄与する人材となっただけでなく、その一部が官公吏、教員、商業従事者などへ転身を図ったこと、総じて卒業者は学校教育をつうじて社会的上昇の機会を得ていたが、その大きさは時代によって拡大・縮小していたことなどが読み取れた。このように、近代化にともなう民衆の教育機会の拡大が社会移動や身分・階層構造の変遷へと結びついていた実態が明らかになった。分析結果を論文にまとめ、発表する作業は次年度の課題となる。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成25年度課題の実施にあたり、新たに予備的考察を追加したため、研究成果の取りまとめ作業の一部が平成26年度にずれ込むことになった。論文執筆が完了次第、平成26年度の研究課題に着手する。 平成26年度課題「女子職業教育の展開プロセス」では、女子職業技術教育政策の動向を概観し、統計史料の分析から学校の開校プロセスを整理する。さらに教育活動の担い手、すなわち国家・地方自治体・教育活動家・企業家・女子運動家が女子教育に対して持った関心、それらの学校開設の目的を探っていく。その際、具体的な教育内容、労働・家族における女性の役割や男女の関係をめぐる議論にも立ち入ってみたい。 平成25年度の外国調査(フィンランド国立図書館)で、本研究で利用する文献の一部を調査・収集した。当面は収集済み文献の分析作業を進めていく。その上で、平成27年2~3月に3週間程度の予定でロシア・サンクトペテルブルク市での調査を実施する。なお、渡航手続きや政情不安などの問題でロシアでの調査に支障が生じた場合は、行先をフィンランドとし、前年度に引き続きフィンランド国立図書館所蔵の同時代刊行物を集中的に調査・収集する。 平成27年度課題「女子職業技術学校生徒の社会構成」および平成28年度課題「女子職業技術学校生徒の進路」についても、平成27、28年度にサンクトペテルブルク市の古文書館にて調査を実施し、入学者名簿や奨学生の審査記録、卒業生の進路に関する史料を収集する予定である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
外国調査旅費の使用を最優先に研究費を使用した。初年度ということもあり、旅費を若干余裕を持たせて見積もり、さらに調査終了後に物品費(図書購入費)を使用することにした。平成26年2月~3月に外国調査を実施した結果、残額の使用は来年度となった。 おもに物品費(図書購入費)として使用する。
|