2014 Fiscal Year Research-status Report
職業技術教育の社会的機能とジェンダー――帝政末期ロシアの教育と社会
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25370870
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
畠山 禎 北里大学, 一般教育部, 准教授 (60400438)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 近代史 / ロシア / 教育社会史 / 職業技術教育 / 社会階層 / 進路 / 女子教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成25年度課題「男子職業技術教育機関卒業生の進路」について、帝政末期ロシアの職業技術教育機関とくに工業学校における卒業生の進路選択、卒業生の進路と社会的出身との結びつきを論じ、学校の社会的機能を解明した。 ロシア各地の工業学校では、卒業生はおもに自ら履修した教育内容にもとづいて工業関連の職業に就いていた。卒業生の中には官公吏、私企業の事務員、教員など、工業以外の道に進む者も見いだされる。工業学校は地元のみならず国内各地の工場生産や手工業、鉄道、電信その他に中下級技術者や熟練工を供給することで、19世紀末の急速な産業発展や重工業化に貢献していた。他方で学ぶ側からすれば、民衆の間で工業学校への進学が初等後教育の数少ない選択肢の一つとなっていたなか、職業技術教育が工業や輸送・通信業、さらには行政、商業、教育といった新中間層に分類される職業に就くための足がかりとなっていた。最初の職業(初職)と出身身分の関係、初職と親の職業との関係については、総じて学校は工業従事者を再生産する機能を果たしていたこと、また上位身分出身者であるほど条件のよい就職や進学のチャンスの大きいことがわかった。このように、職業技術教育の普及にともなう民衆の教育機会の拡大が、社会移動や身分・階層構造の再編を促進していた。 平成26年度課題「女子職業技術教育の展開プロセス」と関連して、ロシア・サンクトペテルブルクのロシア国民図書館その他で文献を調査・収集した。史料の分析をつうじて、19世紀後半以降、産業発展と女性労働の普及などを背景に、民間団体、私人、企業、地方自治体が主体となって女子職業技術教育機関が創設されていったこと、そうした動向をある程度追認する形で、国家は担当部局の設置と教育機関の管轄、法規定の整備による女子職業教育の秩序付けや体系化を進めていったことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究の目的」の達成度を「おおむね順調に進展している」と評価した。その理由は以下のとおりである。 第一に、同時代の刊行物やロシア国立中央歴史文書館(サンクトペテルブルク市)に所蔵されているロシア技術協会付属手工業学校卒業生のアンケート調査史料をもとに卒業生の就職先や職歴を追跡し、男子職業技術教育機関について人材供給機能、工業従事者の再生産機能、社会移動促進機能を見極めることができた。平成25年度課題を遂行するにあたり、退学についてもあわせて考察した結果、研究作業の取りまとめと論文発表が今年度にずれ込むことになった。しかしそれによって、卒業者・退学者の比率や退学理由、退学者の社会構成などをふまえた、より多面的かつ緻密な考察を行うことができた。 第二に、平成26年度課題「女子職業技術教育の展開プロセス」と関連して、ロシア・サンクトペテルブルクの図書館および古文書館で史料の調査・収集を実施することができた。史料から、民間団体や私人、企業、地方自治体などがさまざまな関心や目的から学校を設立していったこと、とくに19世紀末~20世紀初頭にかけて、首都サンクトペテルブルクやモスクワを中心に多様な領域・形態の学校が開校されていったことを明らかにした。女子職業技術教育領域における国家の教育政策は男子のそれよりも始動が遅れ、法規定の整備や学校教育の体系化もあまり実現しなかったことも重要な知見である。分析結果を論文にまとめ、発表する作業は次年度の課題となった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は、まず平成26年度研究課題「女子職業技術教育の展開プロセス」の成果取りまとめ作業を行う。論文執筆が完了次第、平成27年度研究課題に着手する。 平成27年度研究課題「女子職業技術教育機関における生徒の社会構成」については、職業技術教育を対象とした全国・地域レヴェルの統計史料や個別学校の入学者名簿史料をもとに、生徒の社会構成を年齢、出身身分、宗教・宗派、階層(扶養者の職業・職位や収入)、出身校などを基準に特徴づけていく。分析をつうじて、女子職業技術教育領域における教育機会の身分的・階層的構造を解明してみたい。男子職業技術教育と比較した女子職業技術教育の特色についても考えてみたい。 平成25年度および26年度の外国調査(フィンランド・ヘルシンキおよびロシア・サンクトペテルブルク)で、本研究課題で利用する文献を調査・収集してきた。引き続き本年度も、平成28年2~3月に2、3週間の予定で、ロシア・サンクトペテルブルクにて文献調査を実施する。これまでの調査で刊行史料や二次文献がある程度フォローできたことから、今回の調査ではロシア国立歴史文書館や国立中央歴史文書館(サンクトペテルブルク市)の所蔵史料に焦点を当ててみたい。具体的には、女子職業技術教育の政策動向やロシア技術協会などの諸団体の活動にかんする史料、入学者名簿や奨学生の審査記録、アンケート調査など、生徒の社会構成や卒業後の進路にかんする史料が対象となる。
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Causes of Carryover |
今年度も研究費の大部分を外国調査に使用した。前年度の使用実績をもとに旅費や宿泊費、複写費などを見積もったが、政情不安などからルーブルの為替レートの変動が大きく、現地での複写費などについても確定できなかった。そのため、費用をやや多めに見積もらざるをえなかった。日程的にも、外国調査を年度末の2~3月に実施せざるをえなかった。これらの結果、残額が生じることとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
おもに物品費として図書、コンピュータおよび周辺機器の購入に使用する。
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