2016 Fiscal Year Research-status Report
職業技術教育の社会的機能とジェンダー――帝政末期ロシアの教育と社会
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25370870
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
畠山 禎 北里大学, 一般教育部, 准教授 (60400438)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 近代史 / ロシア / 教育社会史 / 職業教育 / 女子教育 / ジェンダー / 社会階層 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、平成28年度研究課題「女子職業技術教育機関における卒業生の進路」に関する史料の調査と分析、平成26年度研究課題「女子職業技術教育の展開プロセス」の成果取りまとめ作業を実施した。 研究課題「女子職業技術教育機関における卒業生の進路」について、ロシア国立図書館(ロシア連邦サンクトペテルブルク市)にて文献調査を行った。女子職業教育機関の沿革、記念集、年次活動報告書など、1880~1910年代の刊行史料を閲覧・収集し、卒業生の進路に関する情報を抽出した。男子職業教育が金工・木工などの熟練工養成を目的としていたのに対し、女子職業教育は裁縫や家政など、家事労働技能の習得や小規模工房の職人養成を目的としていた。このように、女子職業教育の目的や内容が家庭での妻・母役割と結びつけられていたため、女子生徒が卒業後、中間層へ移動する機会は総じて限定的であったこと、それと同時に卒業生には手芸教師などへの道が開かれており、それが入学の動機の一つとなっていたことを明らかにした。 研究課題「女子職業技術教育の展開プロセス」との関連で、19世紀後半ロシアを代表する科学技術団体であるロシア技術協会の女子職業教育普及活動を検証した。活動の目的、内容、成果の検討から、同協会が女子職業(手工業)学校・課程一般規定案を作成し、手芸教員を養成し、ロシア技術・職業活動家大会を開催し、教育システムの基盤を形成していったことを明らかにした。また、そのような活動プロセスにおいて教育活動家らが、家庭における妻・母役割と結びつけながら女子職業教育の目的や教科を形作っていったプロセスを解明した(「帝政末期ロシアにおける女子職業教育の拡張と社会」『北里大学一般教育紀要』第22号)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
以下の理由から、「研究の目的」の達成度を「ほぼ順調に進展している」と評価した。 第一に、平成28年度課題「女子職業技術教育機関生徒の進路」について、ロシア国民図書館などで史料調査を実施し、学校沿革、記念集、年次報告書などの同時代刊行物を網羅的に収集することができた。史料の分析から、生徒の進路傾向、生徒の社会構成と進路との関係性を大まかに把握することができた。 第二に、平成26年度課題「女子職業技術教育の展開プロセス」との関連で、ロシア帝国の女子職業教育が民間教育団体の主導で拡張していくプロセスや、教育活動家たちの議論をつうじて、女子職業教育の目的や内容が定まっていったプロセスをまとめ、論文として発表することができた(「帝政末期ロシアにおける女子職業教育の拡張と社会」)。 そして第三に、研究課題の遂行過程で、これまであまり研究されてこなかった、女子家政教育運動やユダヤ人団体の女子職業教育運動に関する文献を発掘することができた。これらの運動のあり方を視野に入れていくことで、帝政末期ロシアからソ連時代までの女子職業教育の拡張プロセス、女子職業教育領域における国家と社会との関係性を、多面的に解明することが可能となるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、平成26~28年度研究課題の追加調査と成果取りまとめを実施する。 平成26年度研究課題と関連して、ロシア政府による女子職業教育機関法案の検討過程、女子職業教育の目的と内容をめぐる教育活動家たちの議論の動向を、ロシア国民図書館、ロシア国立歴史文書館(RGIA)にて調査し、その結果を追加した上で、論文を執筆する。 平成27年度および28年度研究課題については、これまでに個別学校・学級の学校沿革、記念集、年次報告書などの刊行物を収集し、分析してきたことで、生徒の社会構成、進路傾向、社会構成と進路の関係性が明らかになりつつある。引き続き、ロシア国民図書館などで調査を実施し、史料の分析作業を進めていくことで、帝政末期ロシアにおける女子職業教育の拡張と社会構成との関係について、全般的な特徴を導き出すことをめざす。
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Causes of Carryover |
研究費をおもに、ロシア連邦サンクトペテルブルク市での調査(全21日間)に使用した。円・ルーブルの為替レートがルーブル高に推移したため滞在費用は増加したが、その一方で今回、ロシア国民図書館において文献のカメラ撮影が許可されたため、複写料金や郵送料が当初の予定を大幅に下回り、残額が生じることとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
旅費(外国での追加調査、研究成果発表)、その他(図書)、物品費(コンピュータ周辺機器)などとして使用する。
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