2014 Fiscal Year Research-status Report
ブルゴーニュ=ハプスブルク期南ネーデルラントにおける都市アイデンティティの形成
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25370873
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
青谷 秀紀 明治大学, 文学部, 准教授 (80403210)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | アイデンティティ / 宗教儀礼 / 都市 / ネーデルラント |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は、前年度に行ったメヘレンの宗教儀礼と都市アイデンティティに関連する研究をさらに推し進めると同時に、周囲のネーデルラント諸都市においても同様な事例が見られないかを検証した。具体的には、以下のような点を明らかにしえた。1450年のローマの聖年が翌年にメヘレンで延長されることで同市はネーデルラントの「小ローマ」と化したが、これを受けて、ネーデルラント北部から南東部の諸都市も教皇使節の来訪を利用する形で自都市の聖地化を試みた。こうした自都市の聖地化の試みは、疑似聖墳墓の建立やプロセッションなどの宗教儀礼を通じて、エルサレムの表象を都市空間に重ね合わせることでも実践されたが、ネーデルラントではこうした聖地の表象を活用する都市の宗教文化が根付いていたのである。市民のアイデンティティに大きな影響を及ぼす以上の試みについての研究成果は、同じくネーデルラントにおける代替巡礼の個人的実践をめぐる議論との比較検討のうえで学術雑誌に発表された。 また、メヘレンともつながりの深いリエージュ司教領については、15世紀後半の司教とリエージュをはじめとする司教領諸都市の紛争を手掛かりに、都市の帰属心やアイデンティティのあり方について考察を展開した。聖務停止令や破門といった宗教罰、紛争における聖人崇敬の活用、司教座と教会法廷の移転・分割をめぐる交渉などから、ローマ教会やリエージュ司教、ブルゴーニュ公や都市が、それぞれに教会秩序の理想を模索し、そのずれを抱え込みながらコミュニケーションを展開する様を、紛争の過程に読み取ろうと試みた。その成果は、近く刊行されるはずである。 以上のように、本年度の研究は、これまでの方向性を引き継ぎながら、ネーデルラント都市のアイデンティティと信仰世界の関係について多様な角度からの検討を試みるものであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、研究計画においては、前年度に行ったメヘレンの宗教儀礼と都市アイデンティティの関係についての議論を受けて、同市における歴史的アイデンティティを歴史叙述から読み取る研究を行う予定であったが、若干計画を変更し、メヘレンの信仰世界とアイデンティティをめぐる考察を深めつつ、周辺諸都市の事例をも研究することで、メヘレンのケースをネーデルラントの全般的なコンテクストの中に位置づけることにした。そうした周辺諸都市をめぐる議論のなかには、リエージュ司教とブラバント公の二重の権威の下にあったマーストリヒトのような政治的「飛び地」に関するものも含まれており、研究計画の全般的な枠組みにおいて充分な成果を生み出しえたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画上では、メヘレンと同様な政治的「飛び地」であったトゥルネの状況をも考慮に入れる予定であったが、今後も継続的にメヘレンについての調査を行い、分析にいっそうの力を注ぐこととしたい。また、本年度の研究で若干の考察を行ったマーストリヒトについても、可能な限り調査を行いたいと考えている。マーストリヒトは、地理的にも、帰属する権威に関しても、トゥルネよりメヘレンに近い都市であり、一層有意義な比較対象になりうる可能性がある。
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Causes of Carryover |
前年度は概ね計画通りに経費を支出したが、わずかながら未使用額が生じた。無駄な帳尻合わせによって不必要な出費を避けるため、次年度分の使用額に繰り越すこととした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度分の使用額とあわせて、物品費等で適切に使用することとしたい。
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