2014 Fiscal Year Research-status Report
北米先住民の「記憶の場」構築に関する史的考察:ノーザン・シャイアンの史跡化営為
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25370880
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
川浦 佐知子 南山大学, 人文学部, 教授 (30329742)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 記憶の場 / 国定史跡 / 聖地保護 / 集合的記憶 / 北米先住民 / シャイアン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はアメリカ平原先住民であるノーザン・シャイアンの事例に焦点を当て、現代アメリカ合衆国における先住民の記憶の史跡化営為を検討することで、「記憶」と「歴史」の交差について考察を深めるものである。 平成26年度は、モンタナ州ノーザン・シャイアン保留地を取り巻くように位置するリトルビックホーン戦場国立記念施設、ローズバッド戦場国定歴史名所、ウルフマウンテン戦場国定歴史名所、メディスンディアロック国定歴史名所を視察し、それぞれの場の景観維持の状況や、土地所有の状況等について調査を行った。併せて2011年に認定領域が確定された、先史時代の遺跡を有するワイオミング州メディスンウィール/メディスンマウンテン国定歴史名所についても視察、調査を行った。 現地フィールド調査、及び聞き取り調査からは、1)「インディアン戦争」の文脈で先住民関連地所の史跡化認定を進める内務省国立公園局と、祖霊が棲み、部族の記憶が宿る「聖地(sacred ground)」を史跡化によって保護しようとする部族とでは、「史跡」の定義に大きな隔たりがあること、2)国定史跡認定過程における協議では、先住民側から国立公園局に対し「史跡」定義の再考が様々なかたちで促されていること、3)認定を受けた国定史跡は、国立公園局の庇護のもと、土地開発に対し一定の抑止力をもつことが確認された。史資料調査からは、1992年に国定史跡保存法が改正され、先住民との協議、協力に関わる事項が新たに追加されたことで、先住民が「史跡化」を術として部族関連地所の保護を進めるようになった経緯が明らかとなった。 部族の精神性、世界観が関わる「記憶」は、容易には「歴史」という文脈と接点を結ばないものの、その交差において生じる歴史と記憶の折衝を、具体的な地所の国定史跡認定過程を追うことで明らかにした点が今年度研究の意義として挙げられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度は、予定していた現地調査、及び史資料調査をほぼ予定通り実施することができた。 現地視察調査からは、国定史跡となった地所の維持管理は部族歴史保存委員会委員と、国立公園局との連携によってなされている様が窺えた。保留地東隣接地に位置するウルフマウンテン国定歴史名所近郊では、現在鉄道敷設、及び石炭開発が検討されているが、保留地近隣住民、環境保護団体、及び開発によって影響を受ける他部族が、共同してこれに反対する運動を展開していることが確認された。 資料調査においては、1)1980年代、憲法修正第一条信教の自由に訴えて先住民が聖地保護を試みた事案、2)2000年代、国教樹立禁止条項をもとに、先住民聖地保護への政府関与が問われた事案を検討することで、先住民部族が史跡化を術として聖地保護、土地保全、記憶継承を目指すようになった経緯を明らかにした。 当初予定では平成26年度にはワシントンDC、国立公園局国定文化資源センターにおいて、国定史跡の認定条件等について調査を行う予定であったが、平成25年度国立公園局インターマウンテン地域事務局での調査において、大方の情報を得られたためこれを中止し、代わりに保留地を持たない先住民の歴史・記憶の在り様について、カリフォルニア州立バークレー校、サンフランシスコ州立大学にて調査を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は、部族が祖先の埋葬地であると主張する保留地東隣接地オッタークリークの状況を視察するとともに、モンタナ州政府主導の下、現在進行中である石炭開発計画、及び関連鉄道建設計画の全体像を把握する。具体的には、オッタークリークに近接するウルフマウンテン国定歴史名所が、土地保全のインセンティブとしてどのような効力を発揮しうるのかについて検討を進める。現地インタビュー調査では部族歴史保存委員会委員、部族政府文化委員会委員、及び伝統儀式を司るキットフォックス・ソサエティのメンバーに、部族にとってのオッタークリークの重要性について聞き取りを行う。同時に、石炭開発推進派の部族政府関係者にも聞き取りを行う。オッタークリーク周辺を取り巻くカスター国立森林局関係者には、石炭開発によって引き起こされる環境への影響について聞き取りを行う。 研究最終年度となる平成27年度は、オッタークリークにおける開発立地紛争の検討を通して、史跡化を基とした部族の土地保全営為の有効性と限界について考察する。
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Causes of Carryover |
当初予定では平成26年度はワシントンDC、国立公園局国定文化資源センターにおいて、国定史跡の認定条件等について調査を行う予定であったが、平成25年度国立公園局インターマウンテン地域事務局での調査において、大方の情報を得られたため、これを中止し、代わりに保留地を持たない先住民の歴史・記憶の在り様について、カリフォルニア州立バークレー校、サンフランシスコ州立大学にて調査を行ったため、差額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究成果公表のためのウェブ作成委託料に充てる予定である。
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Research Products
(3 results)