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2015 Fiscal Year Research-status Report

古典期ギリシアの記憶の場

Research Project

Project/Area Number 25370881
Research InstitutionDoshisha University

Principal Investigator

中井 義明  同志社大学, 文学部, 教授 (70278456)

Project Period (FY) 2013-04-01 – 2017-03-31
Keywords帝国の記憶 / 歴史化 / 記憶の構築 / アテナイ / スパルタ / ペルシア / ギリシアの自由 / 海上覇権の再構築
Outline of Annual Research Achievements

平成27年度はペロポネソス戦争終戦時からコリントス戦争、さらにボイオティア戦争期までの時期におけるアテナイの帝国期の記憶と同時代の記憶を研究した。史料としたのはクセノフォンの『歴史』、アンドキデスの弁論(特に『平和について』)、イソクラテスの弁論(特に『パネギュリコス』)、作者不明の『ヘレニカ・オクシュリンキア(P. Oxy. 842)』などの文献資料やIG.II‐2,1(『サモス人顕彰決議碑文』)に始まる一連の前4世紀アテナイの外交決議碑文、第二次アテナイ海上同盟の結成を謳うIG.II‐2,43(『アリストテレス決議碑文』)などの碑文資料である。
その結果、前5世紀の帝国期の記憶はスパルタでの講和会議において歴史化され、前4世紀の初頭歴史家トゥキュディデス、さらにはクセノフォンによって客観化されそれぞれの歴史書にまとめられようとしたのである。しかし敗戦からアテナイが立ち直り、ギリシア世界の中での自らの立ち位置を訴求し、失われた海上でのヘゲモニーを回復しようとするようになると前世紀の記憶が呼び覚まされ、アテナイの政策に沿うように美化されるようになる。その過程と言説、政治の場での役割と効果を解明することができた。そのような例のひとつとして有名な「カリアスの平和」を挙げることができる。スパルタ主導の「アンタルキダスの平和」と対照的にアテナイ主導の「カリアスの平和」がギリシア世界に自由と自主独立をもたらしたと主張するようになる。それが前4世紀アテナイが構築した帝国期の記憶でしかなかったことを明らかにした。しかしそのように後世構築された記憶がアテナイの海上覇権の再建に有効であったことを検証した。同時にギリシア世界に広く残存する親アテナイ派との連携の再建と政治的連帯網の構築に帝国期の記憶が大いに活用されたことも一連の「顕彰決議碑文」によって明らかにすることができた。

Current Status of Research Progress
Current Status of Research Progress

3: Progress in research has been slightly delayed.

Reason

前4世紀のアテナイによる記憶の構築に前5世紀末の三十人政権の経験と記憶が大きな影を落としていることに研究をまとめる段階で気付いたことが理由である。三十人政権が帝国の記憶の抹殺を行ったことは碑文からも明らかになるが、その経験はリュシアスの一連の弁論によって陳述されるだけでなく、帝国期の記憶を過大に評価し前4世紀という時代の中でアテナイのレーゾン・デートルを主張していく原動力となったのである。
それ故、三十人政権によって抹殺されたペルシア戦争や帝国期の記憶の構築、民衆の自由と安全を守ろうとする切実な願望、民衆の権利が再び否定され生存の危機にさらされるのではないかという警戒心の内容と論理に接近していくことが前4世紀のアテナイとアテナイ人を理解するのに重要となる。この課題に取り組むには当初の予定を延長し、さらにもう一年、本研究課題に取り組むことが必要であると判断した。

Strategy for Future Research Activity

先ず三十人政権時代のアテナイ内外の事情を精査し、次いで前4世紀のアテナイ人が三十人政権に対して抱いていた負の記憶を分析し、帝国期の記憶形成に及ぼした影響とアテナイ人の反応の方向性を明らかにしていきたいと考えている。そこには親スパルタ的な心情を持つクセノフォンや、民主制に批判的なプラトン、前4世紀の歴史家テオポンポスやエフォロスに大きな影響を及ぼしたイソクラテス、民主制復活後精力的に三十人政権関係者を弾劾したリュシアスなどの作品を通じて課題に接近していく予定である。同時に前4世紀の碑文資料に文献資料からは知られない記憶が残されているのであれば、そのような記憶をも発掘していくつもりである。
それらの作業を行いながら前年度行った前4世紀のアテナイによる前世紀の記憶の構築に関する研究結果との接合を行い、これまでの研究成果をまとめて古典期におけるアテナイの記憶を報告書化する。

Causes of Carryover

正確な残金を年度途中まで確認できなかった為、残金の正確な金額が算出されるのを待っていたことが理由のひとつである。そして正確な残金額が提示された時には本申請者の学務が繁忙となり、ギリシアでの調査を実施する時間的余裕が残されていなかったことがもうひとつの理由である。更に、前4世紀のアテナイにおける前世紀の記憶の形成と継承、記憶の歴史化を探求していく中で新たな問題として前5世紀末の所謂「三十人政権」を扱う必要性が出てきたことが第三の理由である。本研究課題への接近にはアテネでの調査が有効であり、その必要性を痛感するようになった。この新たな課題を解明することによって本科学研究費補助課題全体をまとめることが可能となると判断した次第である。
以上が次年度使用額が生じた理由である。

Expenditure Plan for Carryover Budget

平成28年度中に、可能ならば8月ないし9月にアテネを訪れ、ケラメイコスの古代墓地と碑文博物館での碑文の調査(三十人政権による破壊状況や三十人政権後に再刻された帝国期の碑文の確認)のための費用として使用する計画でいる。

  • Research Products

    (3 results)

All 2016 2015

All Journal Article (1 results) Presentation (1 results) Book (1 results)

  • [Journal Article] ペルシア戦争の記憶2016

    • Author(s)
      中井義明
    • Journal Title

      人文研ブックレット(同志社大学人文科学研究所)

      Volume: 51 Pages: 4/21

  • [Presentation] ペルシア戦争の記憶2015

    • Author(s)
      中井義明
    • Organizer
      同志社大学人文科学研究所
    • Place of Presentation
      同志社大学烏丸キャンパス志高館110番教室
    • Year and Date
      2015-11-21
  • [Book] Memory of the Past and its Utility, Supplement2016

    • Author(s)
      Yoshiaki Nakai/ Paolo Carafa (eds)
    • Total Pages
      48
    • Publisher
      Scienze e Lettere

URL: 

Published: 2017-01-06  

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