2014 Fiscal Year Research-status Report
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25370882
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
森永 貴子 立命館大学, 文学部, 准教授 (00466434)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 商人 / 会計文書 / ロシア / 中国貿易 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は18-19世紀におけるキャフタの露清貿易(以下、キャフタ貿易)と、これに従事したロシア商人の具体的流通構造について茶の消費を中心に明らかにし、近世から近代にかけてロシアの輸出入と国内流通とがどのように繋がっていたのか分析することである。 ロシアは17世紀末から清をヨーロッパ諸国に代わる重要な毛皮輸出市場と見ていた。その一方でロシアはシベリアで消費される綿・絹織物などを清から輸入した。しかし18世紀にロシア富裕層の間で茶の消費が始まり、同世紀末に輸入量が急激に伸びると、バーター(物々交換)貿易であるキャフタ貿易において茶を輸入するための等価交換商品が必要となった。その結果19世紀初頭に外国製ラシャ製品が、1830年代からロシアの国産綿織物が清に輸出され、モスクワ、ペテルブルグ、ウラジーミルなどの産業地域と、集散地ニジェゴロド、キャフタの流通が結びつくようになった。これはヨーロッパ・ロシアから極東にかけての広域流通の確立時期と重なる。 課題研究者はこれまでロシアの毛皮事業とイルクーツク商人、ロシア・アメリカ会社について研究してきた。本年度はこれに関連して①拙著『北太平洋世界とアラスカ毛皮交易:ロシア・アメリカ会社の人びと』(東洋書店、2014年5月)、②拙論「毛皮事業から見た北東アジアと千島列島―日本・清・ロシアの領域とロシア・アメリカ会社」『新しい歴史学のために』(京都民科歴史部会編、2015年5月刊行予定、33-47頁)を執筆し、世界市場の視点から見たロシアのアジア貿易について分析した。 また課題研究者は2014年9月末よりモスクワで在外研究を開始し、茶貿易を行ったモスクワ商人の取引・流通の実態について、モスクワ市の文書館を拠点に商人文書の調査を進め、現地研究者と情報交換しながら史料収集に従事している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究報告者は2014年9月末よりロシア科学アカデミーロシア史研究所(モスクワ)にて在外研究を開始し、18世紀ロシアの外国人商人史研究の第一人者、ヴィクトル・ニコラエヴィチ・ザハロフ教授の助言を受けつつ文書史料調査を行っている。主な史料はロシア国立古代文書館(РГАДА)、モスクワ市中央歴史文書館(ЦИАМ)、国立歴史博物館手稿課(ОПИ ГИМ)に保存されている。これまでにモスクワやキャフタで茶の取引を行った個人商人の史料(主に役場文書)を調査し、多くの文書を収集できた。ただし本課題で最も重要である取引会計文書などについては史料が限られており、そのため調査が一時期滞った。しかしモスクワ茶商人の中で、後にロシア有数のラシャ製造業者・綿工業者となったボトキン家が、1830年代から19世紀末にかけて詳細な会計文書を残していたことが判明し、その一部がモスクワ市歴史文書館で見つかった。さらにボトキン家始祖ピョートル・コノノヴィチと親族の会社の会計文書がほぼ完全な形で国立歴史博物館手稿課のボトキン文書コレクションとして保存されており、2015年1月より調査を開始した。膨大な記録のうち、例えば1849-1851年の茶の取引会計記録では、キャフタからニジェゴロド、モスクワに運ばれた茶の種類・量・価格・税金・手形利子・輸送費用、売却先商人、仲介商人、モスクワから地方への卸、リガ、ワルシャワ、ケーニヒスベルグなどへの再輸出といった流通の詳細を知ることができる。 ボトキン文書は国立歴史文書館手稿課が昨年夏までモスクワ郊外のイズマイロフにあったため地元歴史家も手をつけづらい状態にあり、そのため従来研究されてこなかった情報が多数含まれており、重要な価値がある。閲覧室開室が水曜・木曜の週2日しかないため、全史料を見ることは現時点で不可能だが、茶貿易に焦点を絞って資料の閲覧・書写を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
現在はモスクワの3つの文書館を拠点に並行して調査を進めているが、大きな問題点は、国立歴史文書館手稿課の史料閲覧・コピーが制限されており、膨大な史料分析には時間がかかりすぎることである。ただし幸いなことに、課題研究者は同文書館閲覧室で研究員のみ作業できる火曜の調査を許可され、2015年4月より週3で作業を行っている。今後の計画としては在外研究期間が終了する9月末まで、ボトキン文書の閲覧・書写を一つでも多く行うことを目標に調査する予定である。しかし文書館が7月、8月に閉館すること、在外研究期間終了が迫っていることから、現在ロシア史研究所の指導教官であるザハロフ教授を通じて、書写の補助作業を行えるロシア人をアルバイトとして雇用できないか、問い合わせをしているところである。 これに加えて、モスクワからペテルブルグへの茶の輸送実態を明らかにするため、ペテルブルグのロシア国立歴史文書館(РГИА)に所蔵される関税記録、キャフタ貿易に関する政府の内部文書についても調査する予定である。同文書館は現在オンラインで各文書の史料ナンバー、タイトルを閲覧することが可能であること、一度閲覧者登録を行った後は、同じくオンラインで閲覧したい史料を事前に予約し、すぐに見られるシステムになっていることから、5-6月は週末にペテルブルグへ出張して史料特定のための調査を続け、7月1日から同文書館が閉館する7月半ばまで、ペテルブルグで作業を行う予定である。 なお、在外研究が終了する9月末以降は、ロシア史研究所のザハロフ教授よりロシアの研究雑誌『経済史年鑑Экономическая история. Ежегодник』への投稿を打診されており、また日本でもロシアの茶貿易をテーマとする学術書の出版を予定している(出版社と合意済み)。このため9月末まではこれら準備のため、文書館での作業を続ける予定である。
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Causes of Carryover |
当該年度に残額が生じ、次年度使用となった最大の理由は、2014年9月末よりロシアでの在外研究を開始したことである。 課題研究者は科学アカデミーロシア史研究所(モスクワ)に所属する形で現地の文書史料・文献の調査を行っているが、滞在費用に関しては在外研究を許可した立命館大学の支給費用から賄っており、特にロシアへの渡航費用、すなわち最初の出発、1回の一時帰国(往復)、最終帰国の計4回の旅費が立命館大学から支給される。これに伴い、2014年度の科研費は現地図書館・文書館でのコピー代、立命館大学規定の在外研究用渡航費に含まれない旅費、ロシアでの研究で助言を頂いた研究者への拙著献本などを賄ったが、滞在費・旅費の大部分を立命館大学の支給費で賄ったことから、残額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2015年度は、在外研究中の東京シンポジウム(2015年7月31日―8月1日)に伴う一時帰国費用、報告原稿の英文翻訳もしくは英文校正、モスクワの文書館における史料書写のための現地ロシア人アルバイトの雇用、ロシアで購入した学術文献の購入費用、帰国後の日本国内での報告・発表のための出張費用について、2014年度科研費残額分と2015年度科研費を使用する計画である。 特に、英文翻訳費用はこれまで翻訳会社に発注した経験から少なくとも30万~40万円の費用がかかると予測され、さらに現地でのコピー代、文献購入費は在外研究から帰国した際に一括して清算する予定である。
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