2014 Fiscal Year Research-status Report
途上国の手工業研究の総合に向けた地理学的試み―既存研究の批判的整理と実地調査から
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25370926
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
吉田 雄介 関西大学, 東西学術研究所, 非常勤研究員 (20469240)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 手工業 / 産地研究 / イラン / 地理学 / 絨毯 / 遊牧民 / 乾燥地域 / ヤズド |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、まず地理学を含む国内外の各分野の手工業研究で用いられてきた手法や資料・データの種類・入手方法を総括し、それぞれの長所と欠点を整理・分析することにより、地理学研究においていかなる情報・手法が有用であるのかを再検討することにある。次に、実際にイランのいくつかの手織物産地をサンプルとし、どのような資史料を利用することが可能なのか(逆に不可能なのか)を現地調査から解明することで調査手法の理論化をこころみたい。
上述の目的に従い、2014年度は、2014年8月から9月および2015年2月から3月にかけて、前年度に予備調査したイラン・ヤズド州を中心に綿織物などの調査を行った。具体的には、予備調査の結果、文字資史料の乏しいことがわかり、それを補うために、モノ自体を資料とすることで「産地」の過去の姿を解明しようと計画した。このため、現地のマスジェド等を数十ヶ所訪問し、「ズィールー」という敷物の使用事例を調査した。また、当該地域の他のマイナーな敷物に関してはこの手法が採用できないため、聞き取り調査を実施した。 同様に、前年度に予備調査をおこなったチャハールマハール・バフティヤーリー州の遊牧民地域も訪れた。帰国後は収集データの整理・分析をおこない、現地での使用状況や寄進年などの基本的な情報を整理し、その一部は以下の研究会や論文(以下の論文だけでなく、他の掲載決定済みの論文も含む)で報告した。
学会・研究会での報告については、関西イラン研究会(大阪大学)において、「モノ自体を手工業研究の資料として―マスジェドで使用中のズィールー(綿絨毯)の事例―」(2014年11月29日)と題して報告をおこない、イラン研究(11号)に投稿、掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
計画では、文献的調査を実施した上で、ある程度の方法論を確立して後、現地調査を行う予定であった。ところが、課題採択後、西アジア・中東地域の現地事情の急速な変化にともない、現地調査が困難になる可能性が強まった。そこで既存研究の整理よりも、初年度(2013年)および翌年度(2014年)は現地調査を先行させたため、既存研究の整理・分析がやや遅れている。なお、現地調査を先行させたため、学会開催時期の関係で学会報告も見合わせた(研究会での報告は実施)。
また、前年度に予備調査を実施した遊牧民地域(特にフーゼスターン地方)において、2014年度は本格的な現地調査をおこなう予定であったが、砂嵐の時期と重なったため、調査を見合わせた。
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Strategy for Future Research Activity |
イランは比較的安定した政治体制ではあるが、西アジア・中東地域の情勢に鑑みて、外国人の入国制限その他の調査の困難化の可能性も危惧されるが、本年度は最終年度となるため、夏季に現地での現地調査を済ませたいと考える。前年度は、文献資料の欠如を補い、手織物産地の過去の変化を明らかにするために、ズィールー(綿絨毯)というモノ自体に注目したが、本年度も現地調査を実施し、できるだけ多くのサンプルを実見し、データを収集したいと思う。 こうしたモノ自体のデータ(たとえば、寸法、デザイン、色、織り込まれた文体など)を収集することで、ズィールーという織物が時代によりどのように変化したのか、あるいはその変化の背後にある産地の社会状況や職人の置かれた状況などを明らかにできるのではないかと考えている。 なお、比較のために遊牧民地域の手工業についても調査したいと考えているが、時間的な関係で先のズィールーという織物を調査の中心に据えたいと考えている。 こうした現地調査を終えた上で、文献資料が比較的乏しく、解明が困難であった途上国の産地研究に有効な方法論の概念化を試みる。また、イランのみならず途上国の手工業関連を扱った論文等の調査を進め、現地調査の結果と合せて、途上国の産地研究の有効な方法を提案する。 さらに、本年度は(前年度にできなかった)学会での研究調査の報告をおこない、さらに一般の人々への情報公開のために市民向けの講演の実施を考えている。また、現地で一部の職人から写真掲載の許可を得ることができたので、早急にホームページを立ち上げる予定である。
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Research Products
(1 results)