2015 Fiscal Year Research-status Report
ポスト紛争地域における情動と芸術表現についての人類学的研究-スリランカを中心に
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25370937
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
足羽 與志子 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (30231111)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | アート / ポスト紛争 / スリランカ / イメージ / 文化政策 / 表象 / 寺院壁画 / 仏教 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年度の研究はスリランカでのフィールド調査を中心に展開した。2016年3月に行ったフィールド調査では、南部のマータラ地域に居住する儀礼芸能集団であるベラワーの村の再訪と地域行政官や市役所の文化担当官に聞き取り調査を行った。またベラワー出身のアーティストが制作した仏教寺院と壁画について調査するために、近隣村およびコロンボ郊外の大寺院を訪問し、詳細な見取り図と聞き取り調査を行った。そのほか、同じくベラワー出身であり、アジア美術界で著名な現代画家および画廊店主への聞き取り調査を行った。その結果、これまで芸術作品、あるいは宗教施設としてしか分析されていなかった寺院壁画が、社会動乱を表象し、かつ訪問者にそれを伝える重要な働きをしていることが了解された。 また2015年10月には中国福建省の厦門大学で中国の仏教復興と文化についての講演を行い、厦門市にある南普陀寺院の壁画調査を継続し、また観音菩薩聖誕の祭礼のさいの壁画の使用方法、グローバルに展開する仏教復興にともなう仏教美術見本展の調査を行った。 地域に密着した寺院に表象される仏教美術が地域住民の意味空間に大きく関与しているのに対して、グローバルに拡散する移民や西欧社会のための建築ラッシュになっている新しい仏教寺院ではむしろ古典的な形態の仏像等が3D技術を使用してコピーされたものに人気が集まっていることを了解した。中国を中心に展開するコマーシャリズムと巨大市場による仏教美術のコピー作品の世界的拡散と、スリランカの19世紀末から20世紀の政治的動乱や紛争を独自の問題として寺院内に表象し、仏教的世界観の再構築を行う仏教美術の両方をLiving Art として論じる可能性を示唆する、重要なデータを得ることができた。 そのほか、研究成果の一部としての講演、対談の座長、論文掲載(「国立新美術館紀要」)を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
スリランカおよび中国での調査は予想以上の成果があった。とくに現代アーティストが社会批評を含む表現を仏教美術様式のパロディ的導入によって表現する手法と、伝統的アーティストが仏教美術様式のうちに社会批評を塗りこめる手法との比較には新しい発見が多かった。しかし調査助手、文献翻訳などの支出が新しくかかり、科研以外の財源を使用しても、旅費および調査用の研究費用がかなり厳しかったため、国内での研究会および講演ができなかった。また調査の継続に当たって、壁画等の撮影に必要な高性能のカメラおよび調査に持ち運びが簡単なラップトップコンピューターの購入が必要になったが、予算をとっていなかったため購入できなかった。 3年目にはいり調査内容の充実が見込め、多くの成果があった1年であり、おおむね順調だった。しかし次年度の調査継続のための備品購入の必要性が生まれ、問題が残った。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は最終年にあたるため、研究活動の総括と成果発表を行うことを予定している。平成27年度のスリランカ調査では継続すべき内容が新たに加わったため、スリランカの調査を予定している。撮影に必要なカメラ、支障がではじめているパソコンの臨時購入も余儀ない状況である。研究資金の限定があるため、学会発表にかわり、査読付きの論文作成をもってかえる。
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Causes of Carryover |
購入予定の書籍の入荷が遅れたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度に入荷され次第、支払いを行う。
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