2013 Fiscal Year Research-status Report
アフリカにおける都市零細商業の展開と多民族共生に関する都市人類学研究
Project/Area Number |
25370939
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
塩谷 暁代 京都大学, アフリカ地域研究資料センター, 特定研究員 (80636126)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | カメルーン / アフリカ都市 / 零細商業 / 市場商人 / 多民族共生 / インフォーマルセクター / 都市人類学 |
Research Abstract |
25年度においては、研究計画にもとづき、文献調査およびカメルーン首都ヤウンデにおける現地調査を進めた。 前期は、調査地ヤウンデの都市形成に関する文献および行政・統計資料をもとに分析をおこなった。これにより現在の多民族的状況を調査する上で必要となるヤウンデの都市形成過程における歴史的背景への理解が深まった。 後期は、ヤウンデの市場(いちば)において現地調査を実施した。首都ヤウンデに供給される食糧の90%以上は市内の市場を通じて都市民に供給・分配されており、市場は、都市向け食糧流通構造をささえる主要機関として重要な機能を担っている。個人規模で展開する市場の食品ビジネス(都市零細商業)にたずさわる市場商人は、都市向け食糧流通をささえる主要なアクターであり、その商業形態を明らかにすることが現地調査の目的であった。現地調査では、市場の食品ビジネスと多民族関係の関わりに着目しつつ、①食品ビジネスにたずさわる商人の出自、②ビジネスへの参入経緯、③販売商品と商品入手にいたる商業的つながりについて、市場商人への聞き取りと参与観察をおこなった。その他、関連すると考えられる行政関係者、運搬業者、金融業者についても聞き取りを実施した。また調査をつうじて、市場商人の同業者組合の形成が進んでいることが確認され、組合関係者への聞き取り調査もおこなった。現地調査により、市場商人の販売商品は商人の出自(生産地)と重なる傾向がある一方で、販売商品の入手にいたる商業ネットワークは、必ずしも出自によらない多民族的関係のなかで選択されていることが確認できた。とりわけ資金調達に関しては、近年増加している小規模貸付業者の利用が増えていることが明らかになった。今年度の成果として、都市向け食糧流通をめぐるヤウンデ-農村間の商業ネットワークの変化に焦点をあてた論文を発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
文献調査では、植民地統治を契機として形成された「植民地都市」ヤウンデの都市形成過程を整理することにより、現在の多民族的状況を通時的に分析する視座をえることができた。人口増加のすすむヤウンデでは、街区の拡大とともにカメルーン独立期にみられた民族毎の集住(主に旧市街に相当)に加え、社会経済的階層による住み分け(多民族的な居住空間としての新市街に相当))もすすみつつあることが確認できた。この成果は計画書の「ヤウンデの多民族的状況の調査」に対応しており、次年度以降に実施する現地調査の基礎的枠組みができたといえる。今後は文献研究から得られた知見を現地調査をつうじて検証していく予定である。 現地調査では、市場商人の食品ビジネスについて、その商業形態の大枠が明らかになった。さらに、インタビューをつうじて都市形成にともなってカメルーン各地から移住してきた市場商人たちの社会・文化的背景、現在の都市生活についての一次資料を得ることができた。市場商人の社会・文化的背景への理解は、食品ビジネスにおける商業ネットワーク形成と深く関連しており、次年度現地調査の足がかりとなると考えている。加えて、現地調査で新たに確認された市場商人の同業者組合結成については、次年度研究計画にある「国家による都市開発計画と都市零細商業に関する調査」と関連するものと考え、予備的調査を進めた。現地調査で得られた知見については、現地研究者、現地調査団体(NGO)関係者と議論する場をもち、その妥当性について検討した。 以上のように本研究は研究計画にそっておおむね順調に進展しているといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度(26年度)は、これまで得られた資料の分析を進めるとともに、その成果をふまえてヤウンデにおける現地調査を継続する。とくに食品ビジネスをめぐる商業ネットワーク形成に着目し、①仕入れにおける取引形態、②資金調達・貯蓄・運用過程でみられる社会関係、③得られた利益の運用方法についての参与観察、聞き取り調査をすすめる。これにより、市場商人の商業ネットワークが多民族的な共同関係のなかで形成されているという仮説を検証する。 また、国家による都市開発計画と都市零細商業に関する調査を実施する。具体的には、2006年にはじまったヤウンデ都市開発計画の一環として空間的・構造的変革がすすんでいる市場をめぐる管理体制と商人による自治の在り方に着目する。関係省庁機関、公文書館、新聞などをつうじて文献資料を集め、都市開発の政策的動向を分析する。一方で、市場商人のみならず、路上商人といった都市零細商業の従事者への聞き取りをつうじて、都市開発の政策的動向とこれに対する市場商人の対応についての一次資料を集める。これにより、都市零細商業がヤウンデで活発に展開する社会・経済的背景の考察をおこなうとともに、都市開発計画に代表される国家体制(フォーマル)における都市零細商業(インフォーマル)の動態理解につとめたい。
|