2014 Fiscal Year Research-status Report
アフリカにおける都市零細商業の展開と多民族共生に関する都市人類学研究
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25370939
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
塩谷 暁代 京都大学, アフリカ地域研究資料センター, 特定研究員 (80636126)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | カメルーン / アフリカ都市 / 零細商業 / 市場 / 多民族共生 / インフォーマルセクター / 都市人類学 |
Outline of Annual Research Achievements |
26年度においては、計画どおり、文献調査とカメルーンにおける現地調査を進めた。また年度末には「市場研究の可能性」と題した研究会を開催した。 前期は、近年の変化、すなわち小規模貸付業者の増加に焦点をあて、商人の資金調達手段・商取引の形態と取引関係に及ぼす影響について分析した。 従来、市場(いちば)の商人が行ってきた経済互助組織・頼母子講は、資金調達・貯蓄・社会保障といった多義的な意味をもって機能してきた。それは、市場における信用あるいは同業者ネットワークといった、長期的な社会関係を基盤として維持されてきた。小規模貸付業者との関係は、それとは全く異なる交渉不可能な「契約」であり、この論理のズレによって利用と忌避といった対応の違いが生まれている。また貸付の利用によって、商業活動の規模に差異が生まれつつあることが明らかになった。この成果は、関連学会において発表した。 後期は、国家による都市開発計画と都市零細商業に関する文献・資料の分析と現地調査をおこなった。 2006年以降、国家経済体制の強化を目的とした都市開発計画の下、ヤウンデ市が統括する市場においても空間・構造的変革がすすんでいる。現地調査では、ヤウンデ市の主導で行われている市場商人の組織化と管理方法(徴税および治安)に着目し、行政官・徴税人・市場の商人代表およびセクター責任者などに聞取調査または参与観察を実施した。これにより、国家の論理とこれまで市場商人のあいだで形成されてきた秩序には乖離がみられるものの、実際の現場では、役人(行政から任命された市場責任者および徴税人)と商人との日常的な関係のなかで、疑似親族関係あるいは民族的アイデンティティを拡大操作しながらその場に対処する柔軟性が観察された。アフリカ都市における「民族的社会原理/多民族あるいは超民族的な都市社会原理」の接合・相克といった視点から今後さらに分析をすすめる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H26年度は、急速に変化する現代アフリカ都市の実態を小規模貸付業者の増加と取引形態の変化に着目して分析をすすめた。これによりアフリカ都市の特徴ともいえる都市零細商業の成立・維持要因の一端を明らかにすることができた。小規模貸付業者は、これまで銀行の融資を受けられなかった都市零細商人に貸付をおこない、従来の経済互助組織や講と比較して多額の資金調達を可能にしている。小規模貸付業者の参入は、都市零細商人が商業規模を拡大する契機となる一方で、資金調達のみならず都市における社会保障の役割も担ってきた経済互助組織や講の機能はここには含まれない。調査をつうじて、資金調達手段が多様化しつつあるなか、商人たちが最も重視するのは「交渉可能性」「相互扶助」「(市)場の共有」といった側面であることが確認できた。この成果は、「民族的社会原理」を超えて都市という「場」において形成される「多民族あるいは超民族的な都市社会原理」の解明につながると考える。 国家による都市開発計画と都市零細商業に関する現地調査からは、国家体制と民衆の生活論理の接合面ともいえる、市場における秩序の在り方について、具体的データを収集することができた。都市向け食糧流通における主要機関であり、また、多くの零細商人を有する市場の管理・徴税は、国家にとって重要な政治経済的関心のひとつとなっている。一方、生活基盤を市場の商売に因っている商人にとって、市場は、商業活動の場であるのみならず一日の大半を過ごす生活の場そのものであり続けた。現地調査で得たデータは、アフリカ都市の社会経済的動態を示す一次資料として今後、さらに検証していく予定である。 以上のように本研究は研究計画にそっておおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
27年度は、ヤウンデにおける現地調査を継続するとともに、これまで得られた資料の統合的分析をつうじて、「民族的社会原理/多民族的あるいは超民族的社会原理」のパラダイム検証にもとづくアフリカ都市の動態解明をめざす。 現地調査では、「ヤウンデ公設市場の食品ビジネス調査」について、これまで着目してきた民族的な分業化と専業化ではなく、近年みられる民族関係に因らない取引関係の多様化に焦点をあてた補足調査を実施する。また「国家による都市開発計画と都市零細商業に関する調査」については、26年度からの継続調査として、同業者組合の動向を経過観察する。 また、最終年度に際して、学会誌への論文投稿とともに、現地研究者、現地調査機関との研究会を開き、本研究における成果の公表、妥当性の検証をおこなう。同時に、現地研究ネットワークをつうじた今後の研究展開あるいは将来的な運用の可能性についても検討したい。
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Causes of Carryover |
現地調査補助にあたる適当な人材を確保することができなかったため
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
調査項目の一部を来年度現地調査において実施する。なお、調査補助の人材はすでに確保済であるため、プロジェクト全体を通した調査内容に遅れは生じない。
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Research Products
(1 results)