2014 Fiscal Year Research-status Report
東シナ海漁民の移動と海域認識の人類学―植民地・境界変動・民族集団関係
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25370952
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
西村 一之 日本女子大学, 人間社会学部, 講師 (70328889)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 漁民 / 移動・移住 / 台湾 / 中国福建 / 植民地経験 |
Outline of Annual Research Achievements |
東アジア地域における漁民の移動と移住を扱う本課題では、台湾東海岸にある一港町を研究の対象として定め、そこを往来する人々について、人類学的臨地調査と文献研究を行っている。平成26年度においては、1990年代以降大きな役割を果たしてきたにも関わらず、近年その数が急速に減った中国からの出稼ぎ漁民に焦点を絞り台湾および中国で調査を行った。 調査地は、1920年代より台湾東海岸で進められた植民開発事業の一環として作られた漁港と移民村を基に、戦後近海漁業基地として大きく成長した。1990年代以降は台湾外からの漁業出稼ぎ者が集まり、かれらがこの地の漁業を支えている。戦前より現在までの間、日本本土および沖縄、中国、フィリピンやインドネシアとの間を、この地で働く漁業者が行き来してきた。調査地は元々先住民アミと台湾漢人が暮らす地域であり、漁業領域においても両者がその主役となってきた。そこに、1990年代以降は台湾外の漁業出稼ぎ者が加わる。つまり、この地の漁業は、異なる民族集団に属する人々が交錯する産業領域である。本研究では、漁業領域における民族集団関係の実態について、漁撈の現場に留まらない陸上での生活をも視野に入れた調査を進めている。中国から来た船員とインドネシアから来た船員が、同じ港で寝泊まりをし、そして同じ船で台湾漁民と共に働いている。かれらの間では各民族集団の成員としての差異を互いに認識していると同時に、漁業者としての同一性が形成されている。 また、かれらが台湾漁民と共に利用する黒潮が流れる海は、中国南東部や日本八重山の漁民が長く利用してきた海域でもある。この海域利用という観点から戦前から現在に至る利用状況について調査を進め、台湾への行き来と東シナ海漁場の利用について考察を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度においては、研究課題に基づく臨地調査を台湾東海岸(台東・基隆)および中国福建(ビンナン地域)を対象として実施した。台湾東海岸と中国福建それぞれの漁業地においてインタビューと参与観察を基にした人類学的臨地調査を行った。主として両岸関係の推移を踏まえ、政治経済の変動をおさえながら、両地域の間を行き来した漁民とかれらの東シナ海漁場の利用に焦点を当てた調査研究を行った。具体的には中国福建から台湾への漁民の移動について調べた。中国福建から台湾東北部の漁業地への移動は戦前既に存在し、戦争の影響から一時中断するが、台湾が中華民国の下に入ることで戦後また行き来が可能となる。しかし、国民党政府の台湾撤退を期に再び途切れてしまう。その後、両岸関係の緩和を期に中国から台湾への出稼ぎが盛んとなっていった状況が明らかとなった。また、東シナ海の漁場利用が戦前から台湾を足掛かりに行われていたこともわかった。この他、両地域の漁民社会について民族誌的研究の収集を行った。この文献研究をあわせ、共にビンナン系漢人として基層文化を共有しているとされる台湾と中国福建の民俗文化について一定の理解を得ることが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
台湾、中国、沖縄での臨地調査を継続する。特に台湾東海岸の調査地を行き来した漁業従事者を対象に、人的移動とそれに伴う地域社会への影響について調査を行う。国境が新たに生まれまたそれが変動するなかで、変化する移動と海域利用について調査を展開する。なお、平成27年度は、課題最終年度のため、東シナ海を取り巻くこれらの地域の歴史過程をふまえた漁民の移動とこの海の利用について、かれらの海域認識を基にした一定のまとめを行う。 また、現在これらの地域を越えた、インドネシアを主とする東南アジア地域からの漁業出稼ぎ者が、調査地をはじめとする台湾の漁業地に数多く存在する現状を踏まえた研究の展開を試みる。
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Causes of Carryover |
研究課題の解明に向けた臨地調査の遂行に必要な日数を十全に確保することが困難な状況となり、使用額が想定を下回ったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究課題の遂行に必要な臨地調査を早期に行うとともに、収集したデータの整理分析に不可欠となる機器備品をさらに充実させ、効率的な研究の実施に努める。
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