2013 Fiscal Year Research-status Report
ポスト被ばく社会の再生における「つながり」に関する歴史人類学的研究
Project/Area Number |
25370955
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
中原 聖乃 中京大学, 社会科学研究所, 特任研究員 (00570053)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 災害復興 / 核実験 / 放射能リスク / 伝統の創造 / 故郷 / 共同体 / 親族ネットワーク / 軍事 |
Research Abstract |
本年度は、研究計画の2年目の研究内容である、マーシャル諸島現地調査を実施した。当初はアメリカ公文書館でマーシャル諸島関連の文書収集する予定であったが、マーシャル諸島内に存在する資料をまず収集する必要があると判断したためである。 本年度の研究計画は、被ばくコミュニティの仮の島、およびほかの二つの環礁コミュニティでフィールドワークを行い、1、体の不調へのサポートや理解、2、本人/他者の「被ばく者」であることの受容過程、3、被ばく時の支援の継続、4、食料や植林の援助、5、被ばく地からの移住の受け入れ、6、被ばく者差別や風評被害の解消、7、特産品「タコノキ羊羹」の復活や分配・製法の伝授、8、ファミリー親睦会、9、故郷に関する伝承や慣習の継承、10、新たな舞踊の創出について調査する予定であった。実際には、場所を変更し、首都、仮の島、仮の島近隣の離島、および仮の島に近い都市部の島の四カ所で調査を実施した。当初は別の環礁で特産品の分配を調査する予定であったが、仮の島の調査によって、より都市部に特産品が分配されていることがわかり、調査地を変更した。 本年度の調査では、調査項目のすべについて調査ができた。避難地ではこの10年間で人口が3分の1に減少していたが、一方で特産品や保存食の生産や分配がさかんに行われ、伝統が再創造されていることが明らかになった。他の環礁によく見られるファミリー親睦会はロンゲラップコミュニティにはほとんど形成されていなかったが、これは「被ばく」という特別の事象によりコミュニティの結束がはかられていると考えられる。1年目の調査では、被ばく地再生における「つながり」の意味を考察するうえで、十分なデータを得られた。 本研究の目的の一つに、福島の復興に資するデータを提供することもあるが、1年目には、東日本大震災の復興に取り組む複数の研究所との研究におけるつながりを構築できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
1年目の研究については、当初の調査予定以上にデータを得ることができた。マーシャル諸島現地調査では、被ばく地の再生にかかわる親族ネットワークについてデータを得られ、また、マーシャル諸島国内で、核実験関連文献を得られた。このことから調査に関してはおおむね予定通りの調査をこなすことができた。 また、研究成果については、今年度の調査前に、仮説提示の場として国際コモンズ学会で英語による発表を行った(2013年6月)。この発表では、現地社会による放射能リスクコントロールに関する仮説を提示した。この学会で海外研究者との関係が生まれた。この仮説に基づき行った8月~9月に実施したマーシャル諸島現地調査の結果をもとに、当初3年目に行う予定であった英文論文を発表できた。国内では、東日本大震災にかかわる複数の研究所との関係が生まれ、今後も関係を継続できるはずである。また社会貢献の一環として、東京新聞4月11日付、共同通信8月2日付配信(神戸新聞、琉球新報など多数に採用される)、中国新聞2月25日付の新聞各紙に論評を3本寄稿できた。 また、国内外の研究所との関係性を構築できたことも大きな収穫であった。 予定の調査項目を終えたこと、国内外に情報を発信できたこと、学術研究のみならず社会貢献として一般に向けた情報発信ができたこと、東日本大震災からの復興にかかわる関連諸機関との関係性を構築できたことなどから、研究は当初の計画以上に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、2年目(2014年度)に当初一年目(2013年度)の調査内容を実施し、3年目には、3年目の調査内容を実施することになる。 1年目に行った調査で、アメリカ公文書館以外にも、アメリカ国内機関に多くのマーシャル諸島関連資料が未整理のまま保管されていることが分かった。2014年度の調査ではこれらの資料の発掘、および分析につとめ、1年目にマーシャル諸島現地調査で得られた人々の語る被ばくの影響を、公文書で裏付ける作業に従事する。これにより歴史人類学的研究である本研究の研究意義を高めることができる。 加えて、今年度は、昨年度までに入手した科学論文を読み解く作業を行う。昨年度までに構築した放射線を専門とする科学者の方にアドバイスを求めつつ、分析を行う。また、科学史研究者との関係を構築するため、および、放射能汚染という科学の知識を伴う研究を人類学という学問分野でどのように扱うのかについて考えるために、科学史を専門とする研究者との関係を構築する。 また本年度は、これらの分析をまとめ放射能汚染地の地域再生をテーマとして、日本語論文を執筆し、年度末までに投稿する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
三年計画の中で、調査対象地であるマーシャル諸島で帰還事業について新たな状況が発生していたために、最初にマーシャル諸島で調査をする必要性が生じた。そこで、一年目と二年目の計画を入れ替えた。一年目の現地調査では、多くの資料を入手できた。 一年目の現地調査で多くの資料を入手できたため、二年目に行うアメリカとハワイでの調査は、多くの時間を割く必要が薄れた。アメリカ本土に多くのマーシャル諸島関連の資料があることが判明し、ハワイではなく、アメリカ本土を中心に文献収集を行う予定である。
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