2014 Fiscal Year Research-status Report
ポスト被ばく社会の再生における「つながり」に関する歴史人類学的研究
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25370955
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Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
中原 聖乃 中京大学, 社会科学研究所, 特任研究員 (00570053)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 核実験 / 放射能汚染 / マーシャル諸島 / 米国 / ネットワーク / リスク |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、アメリカの核実験によって被ばくし、現在「仮の島」での生活を送るマーシャル諸島ロンゲラップ共同体を対象として、被ばく後の社会における「つながり」の意味を、核実験に関するアメリカ公文書、および参与観察とインタビューによって明らかにすることであった。とりわけ本研究で特徴的な点は、「親族の「つながり」を基盤として慣習的かつ日常的に行われる実践が、被ばくを乗り越えて新たな社会を構築する側面に目を向けるという点であった。 2年目にあたる平成26年度においては、昨年度マーシャル諸島で収集したデータに関連して、米国における資料を収集することができた。マーシャル諸島の核実験による、グローバルな環境汚染状況、および放射能による被ばくに関する現地の人々に関する報告書、および日本では入手不可能な科学調査論文などを収集することができた。また、マーシャル諸島に限らず、放射能を使った実験―放射能動物実験や人体実験に関するデータも得られたが、これは米国の放射能に対する姿勢を知るための重要な資料となった。また、これまで得られた科学論文や公文書などを分析し、2つの研究論文として公表した。 これまでの研究においては、文化人類学的研究は現地社会の動態のみを、また科学史や環境学研究は科学的な側面のみに焦点を当てて研究を行っていることが明らかになった。放射能問題に関する科学的論文および公文書の分析と現地社会の考察を行い、これらを総体としてとらえようとする研究は、ほとんど行われていないことが明らかになった。その点においても、本研究がめざしている「人びとの受けた被害と科学資料を突き合わせる」といいう点は、十分に意義があると確信した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、アメリカの核実験によって被ばくし、現在「仮の島」での生活を送るマーシャル諸島ロンゲラップ共同体を対象として、被ばく後の社会における「つながり」の意味を、核実験に関するアメリカ公文書、および参与観察とインタビューによって明らかにすることであった。2年目は初年度のマーシャル諸島現地調査を補完するためのデータを米国で収集することが目的であった。 当初の目的は、マーシャル諸島ロンゲラップ環礁の被ばくに関して、とくに人体の被ばく、および当時の担当者や視察団の音声記録やテープ起こし原稿などの収集を目的としていたが、それらは入手することができなかった。ただし核実験に関する幅広いデータは得られた。 このようなことから、2年目の研究も、おおむね順調に進展していると評価することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、マーシャル諸島の被ばくコミュニティの避難島を中心とした親族ネットワークの調査を行う。 夏季に、避難島であるメジャト島を訪れ、移住状況について調査し、避難島を中心として広範なネットワークを明らかにする。また、保存食の生産過程と再分配過程を詳細に調査する。今夏の調査で得られたデータは一昨年の調査データと比較する。また、一昨年紹介していただいたタコノキ羊羹の作り方を伝授した男性のライフヒストリーを中心に聞き取りを行う。 またこれまでの調査の成果を公表するために、ホームーページの開設を目指す。
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