2013 Fiscal Year Research-status Report
水俣病被害者支援運動のコミュニティに関する人類学的研究
Project/Area Number |
25370958
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
平井 京之介 国立民族学博物館, 研究戦略センター, 教授 (80290922)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 文化人類学 / 社会運動 / 民族誌 / NPO / コミュニティ / 社会学 / 水俣病 |
Research Abstract |
本年度は、相思社および水俣市周辺において、約2ヵ月間にわたる現地調査を実施し、水俣病被害者支援NPO「水俣病センター相思社」(以下、相思社)の現在の活動内容、組織形態、メンバーの社会的属性、メンバーどうしの関係、所有する運動の資源等についてデータを収集した。その結果、2005年に実施した調査結果と比べて2つの大きな変化が生じていることが明らかになった。 ひとつは、世代交代の進行である。90年代以降、相思社の活動をリードしてきた60歳代のメンバーに代わり、30歳前後の新しいメンバーが活動の中心になっており、それにともなって活動の方向性や運営方法等に変化が顕れ、ときにはそれがさまざまな困難を生じさせていることが明らかになった。このことは、相思社という個別の団体に限られた問題ではなく、水俣で被害者を支援している多くの市民団体において観察されることであることもわかった。 もうひとつは、市民団体と行政との関係の変化である。研究者は現地調査において、相思社のメンバーとともに、水俣市および熊本市でおこなわれた国際水銀条約会議、水俣市立水俣病資料館の展示リニューアル検討会議に準備段階から参加した。これらの活動を通じて、これまで敵対的な態度をとることが多かった水俣病被害者を支援する市民団体と熊本県や水俣市とのあいだで、少しずつではあるが信頼関係が醸成され、ときに協働するようにさえなっていることが観察された。このことは、市民団体の活動の方向性を理解するうえできわめて重要な要件であり、今後も注視していくことが必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、ほぼ予定していた通りの現地調査を、熊本県水俣市の水俣病被害者支援NGO「水俣病センター相思社」で実施することができた。現在の活動内容、組織形態、メンバーの社会的属性、メンバーどうしの関係性、所有する運動の資源等についてデータを収集した。相思社のメンバーだけでなく、相思社と関係をもついくつかの市民団体のメンバーともある程度の信頼関係を築くことに成功し、さまざまな情報を得ることができたことから、調査は順調に進展しているといえるだろう。また、オブザーバー的な立場であるとはいえ、水俣市立水俣病資料館の展示リニューアル検討会議に参加を許されたことは、今後の水俣病を伝える運動を調査研究していくうえで、貴重な体験だったといえる。 また研究者は、2014年2月22日・23日に、国立民族学博物館において、台湾、韓国、日本の社会運動研究者を集めて国際シンポジウムを組織した。そのなかで、現在の相思社の活動とその意義について発表し、他の参加者と意見交換をおこなった。このことは、これまでの研究の進捗状況と、今後の課題を確認するうえで有意義なものであった。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の現地調査において、相思社の活動全般について十分なデータを収集することができた。今後は、本年度に築いたラポールのうえに、さらに踏み込んで、相思社が蓄積している知や実践の様式に焦点を当てて現地調査を推進していく。さらに、関係者からの聞き取り調査を通じて、相思社と行政機関や政治団体、水俣病原因企業、マスメディア、地元社会との関係を現地調査によって解明することが課題となるが、これには本年度に参加した、水俣市立水俣病資料館の展示リニューアル検討会議に引き続き参加することが、大きく貢献すると考えられる。とりわけここでは、相思社がこれらの団体や制度から介入を受ける過程と、相思社がこれらの団体や制度に適応し自らを変容させる過程の双方を調査研究の中心に置く予定である。
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Research Products
(1 results)