2015 Fiscal Year Annual Research Report
叙任権闘争期における法観念の変動ーザーリアー朝の王権を対象として
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25380003
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
西川 洋一 東京大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (00114596)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ザーリアー王権 / 叙任権闘争 / カノン法学 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、ハインリヒ4世、5世、ロータル3世の国王証書の検討を行ない、そこに見られる特徴的な法的表現と、当時の、とりわけ聖職者の知的世界における法思想や法学的教養の発展との関係について検討を加えた。従来から指摘されていたローマ法的な概念や論理の直接的借用のみならず、例えばフォークトと教会との権限争いにかかる文書において初期の教会法理論の影響を示す用語法や論理を確認することができた。また実際の訴訟においても、判決の根拠とその執行過程に関して、以前よりも明確且つ技術的に表現されるようになった。 これらの法的な表現は、しばしば皇帝権の権威の強調に伴っており、聖職者のみならず世俗貴族もこのような法観念を一定の程度で受け入れていたことがわかる。それは同時に、このような新しい法観念がライヒの統合のために機能していたことを示しており、この種の王権と貴族・教会に共有された法観念を、法制度と「儀礼」や「象徴的コミュニケーション」の中間の位相として、国制史研究に組み入れることの可能性を明らかにしたと言うことができる。 全体としてザーリアー期においては、主として人的なコネクションで支配領域内の諸勢力を統合するしかなかったザクセン王朝期と比較して、教会はもとより世俗貴族の側においても見られた文化的レベルの上昇と並行して、王権の側から法的に正当化された支配理念を発信することで、統合を強めていこうとする傾向が明確に確認され、シュタウフェン期における法観念・法実務の飛躍的な展開の基礎がこの時代に据えられていることが明らかになった。
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Research Products
(1 results)