2013 Fiscal Year Research-status Report
弁護士業務の活性化と法律事務員の養成システムに関する研究
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25380007
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
仁木 恒夫 大阪大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (80284470)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 法律事務員 / 弁護士業務 / 養成システム / アメリカ / 比較研究 |
Research Abstract |
平成25年度は、主に次の二つの側面から研究を進めてきた。 一つは、筆者がおこなってきた法律事務職研究を統合し理論的枠組を構築する作業である。理論的枠組への示唆を得るためのアメリカの中小規模法律事務所に関する文献調査からは、弁護士の個人的ネットワークとIT技術に依拠した業務体制を反映させた弁護士と法律事務職との協働の把握の必要性が明らかになった。一方、これまでの筆者の研究成果に基づく法律事務職の活動の再構成については、一応、裁量的事務作業と単純事務作業とに分類できるが、むしろ弁護士の活動の先を見ながら双方の作業を的確かつスムーズに遂行していくことが、個人事務所から共同法律事務所まで共通して妥当する理論モデルであるとの仮説を得ている。 もう一つは、アメリカの弁護士補助職の業務とその養成に関する実態調査である。調査は日弁連の担当業務改革委員及びJALAP関連法律事務員と合同で、平成25年6月前半にニューヨーク州とニュージャージー州において、複数の中小規模法律事務所の訪問調査とNFPA及びNALAの聞き取り調査として実施された。本調査により、アメリカの大都市部と地方都市部における法律事務所と法律補助職の実態の一端を把握することができた。調査から得られた資料は、事前に行った文献調査に基づく知見をより具体的かつ立体的に補充するものであり、比較対象としてのアメリカの中小規模法律事務所の特徴を捉えるのにきわめて有効であり、理論的枠組の構築にも反映されている。なお、その成果の一部は、すでに日弁連報告冊子の原稿としてまとめられている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度は、研究計画全般の中では、準備的作業にあてられている。 研究計画は、筆者のこれまでの法律事務員研究の統合を基点とするものであり、その作業は比較的スムーズに達成されている。ただし、法律事務員問題を考えるうえで不可欠の弁護士をめぐる業務環境は、いまだ激変が続いており、わが国の弁護士及び法律事務員の実情のできるかぎり正確な把握を継続して行い、これによる修正が必要になるだろう。 比較の対象に予定されているアメリカの弁護士補助職に関する研究も、文献調査及び実態調査ともに順調に行われ、こちらは当初の予想以上の成果を獲得している。特に実態調査は、計画の準備及び遂行に困難があったが、8か所の中小規模法律事務所に関する質的資料を得ることができており、文献から得られた知見と照らし合わせることで、アメリカの多様性と一定の共通性が明らかになっている。さらに調査対象地としてニューヨークとニュージャージーを選択し、調査が実施できたことにより、都市規模の違いが弁護士補助職のあり方に影響をしているのではないかという仮説的な見通しを獲得するに至っている。アメリカの法律補助職に対する理解を多角化する視点を得ることができた一方で、文献研究に依拠した理論枠組の構築は、そのために整理がやや難しくなっている。現時点では、研究計画当初の予定どおりL.LevinとC.Seronの研究を中心に作業を行っており、一定の成果を得てはいるが、今年度に計画されている「法律事務員理論研究の洗練」と「アメリカ調査についての最終的な整理・取りまとめ」に残された重要な課題の一つである。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度の研究計画は、概ね順調に達成されており、今後も基本的には当初の計画どおりの研究計画を引き続き遂行していく予定である。すなわち、平成25年度の研究成果をもとに「法律事務員理論研究の洗練とアメリカ調査についての最終的な整理・取りまとめ」を行い、「わが国の法律事務職養成システムの政策論的検討」へと進むことになる。 ただし、これまでの研究過程で明らかになってきたいくつかの課題について、当初の計画の大枠は維持しつつ微調整の範囲で手当てをしていく必要がある。第一に、法曹人口の増加傾向の一方で司法試験合格者の抑制へ向けた制度改革が浮上してきており、弁護士及び法律事務員をとりまく環境はなお変動することが予想される。そのため、計画当初の予定以上にわが国の法律事務員及びその養成制度に関する実情把握を丁寧に継続していく必要があるだろう。この点については、日弁連の事務職員関連委員会に出席させてもらう許可を得ており、主にその場を通して情報収集につとめる。第二に、比較対象国であるアメリカの実情をふまえた理論研究についても、継続して進める必要がある。一応の成果を獲得してはいるが、中小規模法律事務所ないし弁護士補助職に関する他の先行研究をさらに検討する。また、今年度の計画に予定されている追加的なアメリカ調査によって補充される資料により、文献調査の成果と実態調査の成果とのより適切な統合が期待される。 本研究は、最終年度に予定されている日弁連業務改革シンポジウムで成果の一部の公表を予定している。すでに当該シンポジウムの準備も着手されており、平成26年度からその進捗にも留意しながら研究を進めていく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の研究遂行過程で、平成26年度に当初の予定以上に調査が必要になることが見込まれたため、次年度の旅費の一部としての使用にあてることにした。 1回分の国内出張旅費の一部として使用する予定である。
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