2015 Fiscal Year Annual Research Report
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25380011
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Research Institution | J. F. Oberlin University |
Principal Investigator |
堀井 聡江 桜美林大学, 人文学系, 准教授 (20376833)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | シャリーア / イスラーム法学 / 根の学(ウスール・アル=フィクフ) / 枝の学(フルーウ・アル=フィクフ) / スンナ派四法学派 / イジュティハード / タクリード / タルフィーク |
Outline of Annual Research Achievements |
前近代におけるシャリーア(イスラーム法)ならびにイスラーム法学の変化を明らかにすることによって,従来法の「西洋化」の観点から論じられてきた中東イスラーム世界の法の近代化をとらえ直すという目的から,特にイスラーム法学における学説の標準化/統一という現象に注目してきたが,今年度はイスラーム法学におけるタルフィークの問題をとりあげた。 タルフィークとは,同一の問題に関する複数の学説を「接合」ないし折衷し,新たな学説を創出することを指す。従来の研究によれば,タルフィークはとりわけ近代以降のシャリーアに基づく立法のなかで,スンナ派四法学派の学説の折衷によりそれぞれの過不足を補う立法技術として広く用いられるようになり,その意味でのタルフィークの起源は19世紀後半にエジプトで始まるイスラーム改革運動の一環であるシャリーア統一運動に遡るが,前近代におけるタルフィークの意義や学説の詳細は明らかにされていない。本研究では,前近代イスラーム法学におけるタルフィークをめぐる議論の詳細と共に,シャリーア統一と結びつけられた近代におけるタルフィークと前近代におけるそれとの関係性について以下のことを明らかにした。タルフィークは,イスラーム法学における法理論学の中心テーマであるイジュティハード(広義では啓示からのシャリーアの演繹)に関連する複数の論点から徐々に派生し,特に13-14世紀から概念化が進み,15-16世紀に独立の論点として確立した。この文脈におけるタルフィークは,裁判官等の法実務家は自らの学派の通説的な学説のみを適用すべきであるとするイスラーム法学の理論的趨勢に反する行為とされ,つまりはシャリーアの統一とは逆の方向に位置づけられていた。だが,スンナ派四法学派体制自体の存在意義が問われるようになる17世紀には,かかる体制を打破するものとしてタルフィークが近代的なそれに近い意味づけを与えられる。
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Research Products
(3 results)