2014 Fiscal Year Research-status Report
ローマ法におけるレグラエregulaeの研究--ポティエのレグラエ論を中心に--
Project/Area Number |
25380013
|
Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
吉原 達也 日本大学, 法学部, 教授 (80127737)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | ローマ法 / レグラ / regulae / Pothier / Cujas / 法体系 / 法学方法論 / 法学史 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.本年度は、ポティエ 『新編ユスティニアヌス学説彙纂』Pandectae Justinianeae in novum ordinem digestae の最終章第五50巻第17章「古法のさまさまなレグラエについて」のうち、昨年度に引き続き、第1部 法の一般的レグラエのうち、「レグラエ第一」の内容についての検討を継続しつつ、とくに、ポティエの種々の作品にも大きな影響を与えているキュジャスの学説彙纂注釈Iacobi Cviacii Opera omnia in decem tomos distributa, Paris 1658所収の第8巻掲載の2つの注釈を比較検討を通じて、ポティエのレグラエ論の特質、レグラエをめぐるキュジャスとポティエの具体的な影響関係の一端を明らかにすることができた。具体的な成果としては、「『学説彙纂』第五〇巻第一七章第一法文について―ポティエ『新編ユスティニアヌス学説彙纂』レグラエ論序章―」日本法学80巻1号77-105頁を公表した。 2.1と併行して、注釈学派以来のレグラエ学説史として、アックルシウス『標準注釈』の要約(1.レグラの性質、2.レグラの力、3.レグラの機能、4.レグラの欠陥)に注目し、アックルシウス以前の、バッシアヌス、アゾのスンマのレグラエ論(1.レグラエとは何か、2.その叙述法、3.表現の一般性、4.機能及びレグラエの導出原理など)の検証をふまえつつ、ディヌスらの次世代以後のレグラエ理解との違いについて個別的な検証作業を行った。 3.ポティエ『新編ユスティニアヌス学説彙纂』第50巻第17章のうち、第2部 人についてのうち、第1章 人の身分及び境遇による人の分類について及び第2章 法におい人格について認められる諸性質についての検討を通じて、ポティエによる5分類体系のうち、人の法の構成原理を概括する作業を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.ポティエのレグラエ論に至る系譜の中で、今年度はとくにキュジャスに注目し、両者の著作の比較検討の作業を行った。キュジャスがポティエにとって重要なのは、第17章所収のレグラエが『学説彙纂』全体の概括ではないことを発見したことにあると考えられる。中世注釈学派以来、レグラエの性質の理解について、時代による変遷があり、注釈学者たちが必ずしもそのように理解していなかった理由として、テキストの違いを示唆することができた。。 2.そのことを前提として、レグラエの理解について、ブルガルス、バッシアヌス、アゾからアックルシウスに至る法学者間の差異について比較検討を行った。ポティエがこの点について、第1の注の中で、「弁論家の間で、『事項の略述causae conjectio』とは、事案の簡潔な筋書きのことである。」と記し、キュジャスもアスコニウス偽書などをひいてこの「事項の略述」を論じている。現代の刊本もフィレンツェ本によりながら、パウルスのサビヌスからの引用は、quasi causae coniectioと読むのが通例であるが、これに対して、ボローニャ本では、この部分のquasi causae coniunctioつまりレグラは「事項の結合」と読まれた。これによれば、Aという事項で適用された事柄がBという別の事項に適用されると、その事柄がレグラとなる、あるいは共通の理と衡平性を共有する事項の結合するものがレグラであると理解されていた。こうした広がりがレグラの性質に関する理解の変遷を示唆するものであり、今後こうした方向での法学史検討の手がかりを得ることができた。 3.第2部の人の法についての検討と併行して、大学所蔵の近世ローマ法関係コレクションのうち、レグラエ文献について継続して書誌情報の整理を行い、とくに初期の刊本にあたるインクナブラ本に関するデジタル化資料リストを作成することができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
1.ポティエ『新編学説彙纂』第50巻第17章の全体像の特徴を明らかにするために、ポティエの方法論について、(1)自然法的・後期スコラ学的枠組、(2)論理学的・弁論術的枠組、(3)法学提要システムへの依拠、(4)法的レグラエの構築、(5)人文学的テキスト分析が複合的に存在しており、こうした諸種の方法がいかに統合されているか、その手法をより具体的に検証する。 2.具体的な検証作業としては、(1)レグラエとなる法文の抜萃方法について、キュジャス以後ドマ『抜粋法文集』など先行文献との比較。(2)抜萃されたレグラエの分類枠組みとして、法学提要式の配列の関係を明らかにすること、(3)これと関連して、とくにD. 50.17.の構成・配列の変更の意味と論理を明確にすること。 3.第50巻第17章の体系を検討するあたって、ポティエが行った種々の前提作業、とりわけ、学説彙纂の原典復元作業の意味を明らかにすること。先行する人文学的テキスト群、キュジャス、ラビット『索引』、ゴドフレドゥスなどを前提として、ポティエが行った原典復元作業の成果、彼以後の18世紀のホンメルCarl Ferdinand Hommel(1786)、19世紀末のレーネルOtto Lenelのパリンゲネシア(1889)研究(その延長線上の成果であるレーネル『永久告示録』復元作業について法学紀要56巻(2015)を参照)との差異と方法的な限界を踏まえつつ、当時のフランス法実務との偏差について検討を試みる。 4.中世註釈学派以来の法学史を検討するにあたって、レグラエ法学の果たした役割を明らかにする必要があり、とりわけ人文主義法学のもとでのレグラエ形式の法学文献の展開クックに代表されるイングランドにおけるリーガル・マキシムズの流れ、その一方で、これに対するホッブズらの批判など、ポティエに至る系譜を可能な限り明らかにする。
|
Research Products
(6 results)