2015 Fiscal Year Research-status Report
ローマ法におけるレグラエregulaeの研究--ポティエのレグラエ論を中心に--
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25380013
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
吉原 達也 日本大学, 法学部, 教授 (80127737)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ポティエ / 新編学説彙纂 / ユスティニアヌス / 法学提要 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、ポティエ 『新編ユスティニアヌス学説彙纂』最終章第50巻第17章「古法のさまざまなレグラエについて」5部のうち、第1部「法の一般的レグラエ」についての部分の分析をふまえつつ、主として第2部 人の法の具体的な読解と分析を試みつつ、第3部 物の法以下の読解のための準備的な検討にも進むことができた。 第1部において、ポティエは、さまざまなレグラエの中から「一般的な」レグラエを抽出する。しかしそれはパンデクテンのもつ所謂「総則」に類する性格のものでない。ポティエが、ローマ法源からいかなるものを「一般的」なものとして抽出しているかを考えると、「個別の法カテゴリーに属さない一般的法準則generale rules」を抜き出しているのであり、このことがポティエのレグラエ論の大きな特徴として指摘できる。 第2部人の法に関しては、ユスティニアヌス『法学提要』第1巻の構成との比較を行った。大筋において、両者の論題配列は一致しているが、子細に見れば、ポティエ独自の工夫が随所に示されている。両者はともに生来自由人及び解放自由人の種別を含むが、ポティエにおいては、その前提として自由libertasに力点が置かれ、それとの対比で、諸種の人の身分の差異が論題とされる。また元老院議員級市民、自治都市市民、在留外国人、市参事会員及びその子など、市民身分の差異に関する論題が大きな位置を占めていることも、人の法構成上の重要な点である。法において人に関して留意されるべき諸種の性質(年齢、性、心身上の障害、名誉など)と並んで、人に関する諸権利として、主人権及び家長権、保護者権、後見権及び保佐権がまとめられるが、権力又は権力類似のタテの関係として、さらに夫婦関係、婚姻、内縁、姻戚関係などはヨコの関係をなす論題群としてまとめられており、ポティエによる提要式構成の特質を指摘することができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の主要な課題は、ポティエ『新編学説彙纂』最終章における法学提要式システムの分類原理の特性を明らかにすることにある。これまで、第1部一般的レグラエ、第2部人の法に関して、ユスティニアヌス『法学提要』第1巻の構成との比較検討を試みた。さらに第3部 物の法についての具体的な読解に取りかかっており、その作業を円滑に進めるための準備として、ポティエの原文テキストのデジタル化作業をほぼ終えることができた。このうち、第1部については、部分的に本文をのみを摘出して対訳形式として公表の機会を得たが(cf. http://www.law.nihon-u.ac.jp/publication/pdf/nihon/81_3/04.pdf)、第2部以後も現在第1章については、雑誌掲載が既に予定されており(「ポティエ『新編学説彙纂』第50巻第17章第2部第1章について」として『日本法学』82巻1号掲載予定)、残余についても可能な限り早急にホームページ等にデジタル化資料として公表するための準備を進めている。なお、資料的な正確性を確保するために、第三者による協力体制を整備している。 ポティエ『新編学説彙纂』最終章5部門の具体的な構成を知る手がかりを得るために、さし当たって一覧可能なインデックス(日本語対訳版)を準備しており、その基礎的な作業をすでに終えることができたが、さらに内容面での精度を高めるために、個々の分類原理をはじめ、細部の検証作業を継続している。 法学提要式システムと並ぶ、ローマ法に独自な告示システムについて、ポティエもFragmenta edicti perpetuiという独自の告示研究が存在する。これら二つの法システムの比較のために、レーネルによる告示復元研究について併行して検討を行ってきたが、その成果の一部を公表することができた(「永久告示録 下」『法学紀要』57巻)。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、ポティエ『新編学説彙纂』最終章における法学提要式システムによる分類原理の解明を目指すものである。これまで第1部一般的レグラエ、第2部人の法の分類原理を明らかにすることができた。現在進行している第3部物の法、第4部訴訟の法、第5部公法における分類原理の解明を目指すことが第1の課題である。 ポティエ『新編学説彙纂』は法学提要式に準じて分類がなされているが、こうした法システムが、当時の18世紀フランス法学史の中でどのような位置を占めるのかという点、とくにその発想の系譜を具体的に辿るにあたって、差し当たり、ドマ(Jean Domat)の『新配列における市民法』との関係性についても一定の見通しを得たいと考えている。ポティエには必ずしも明示的なドマの引用はなく、一見無縁のように見えながら、子細に見てみたときに、レグラの発想について両者の類似性を見ることができるのではないかと考えている。さらに法学提要式法システムの編別構成に基づく内部的な下位分類の論理がいかなるものであるか、ガイウス、ユスティニアヌス『法学提要』との比較を通じてその歴史的系譜を整理しておきたいと考える。人、物、訴訟による三分類の方法の起源については、大別すると、① 神官法学起源説、② 人=ペルソナ(=劇の仮面)のつながりから、人・物・行為の分類と、人・舞台装置・演技の分類による詩学から影響説(Villey)、③ ギリシャ文法学ないし修辞学の分類方法に由来するとするものがある。この点で、体系の出発点としてすべての法が人と物と訴訟乃至行為に帰属するという発想は、存在の本質と真理への問いかけようとするヨーロッパ法学のパトスと深く関わるものであり、こうした発想の系譜の中にポティエの構想を位置づけつつ、フランス民法典に至る法システムに関する配列への影響関係との関連についても、一定の見通しを得たいと考えている。
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Research Products
(8 results)