2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25380014
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
川口 由彦 法政大学, 法学部, 教授 (30186077)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 法制史 / 裁判制度史 |
Research Abstract |
研究初年度である本年度は、執達吏制度の前提となる、江戸期の判決執行状況について調査・分析を行った。 江戸期においては、奉行所等の国家官庁が関係する訴訟は、大きく2種類にわかれていた。1つは、幕府や藩が一定の社会秩序の保持・実現を目的として取り扱った吟味筋である。吟味筋は、保持の対象となる社会秩序を幕府・藩の強制力の発動によって直接に担保するものであった。ここでは、事件の加害者と被害者を当事者として両者間の関係を調整するという中世・検断沙汰に広くみられた対審構造は採用されなかった。吟味筋においては、捜査、捕縛、取調、訴追、判決のすべてを同一の国家官庁が担い、被疑者を追及するという糾問主義的な裁判がみられた。これに対し、もう1つの類型である出入筋では、吟味筋とは全く逆に、当事者間の関係調整が大きなテーマとなった。出入筋は、大きく金公事と本公事にわかれる。金公事は、金銭賃借、売掛金などの金銭支払請求の訴訟であり、本公事は、それ以外の境界争い、入会利用等の土地や身分に関する争いだった。金公事に対しては、幕府・藩は、判決申渡しにいたることを極力避けようとし、当事者間の合意に基づく内済を奨励した。本公事については、金公事ほどではないが、やはり内済で結着することを奨励した。 上記の吟味筋においては、判決執行体制が充全に用意されており、関係下役人とその指示に基づいて刑を執行する刑吏が存在していた。これに対し、出入筋においては、判決執行のためのシステムは存在しておらず、敗訴者が判決にしたがわない場合、勝訴者は、自らの工夫で執行を促すしか方法はなかった。内済が奨励されたのは、内済の場ではその場で金銭のやりとりが行われ、幕府・藩は、これを確認して済口を与えていたからである。内済に依存せず、民事判決の執行システムを構築する作業は、明治になって開始される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、判決執行について論じるための諸前提につき、調査を行った。 このてがかりとなったのは、東京法学校(1880年に東京法学社という名称で設立され翌年に東京法学校と改称し、1889年に和仏法律学校と名乗った法学校で法政大学の前身)を1896年7月に卒業した六嘉秀孝という人物の存在である。六嘉は、熊本県上益城郡六嘉村出身の士族であった。和仏法律学校の校友(卒業生)名簿では、六嘉秀孝の職業は、「執達吏」となっている。 六嘉は、熊本裁判所の判決書をみると、熊本在住時に、自ら出廷する経験を有し、こうした実務上の知識を有して東京法学校に入学したのである。本年度はここまで解明できた。
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Strategy for Future Research Activity |
1872年に制定された「司法職務定制」によると、判決執行は町村役場に委ねられていた。当時は財政上の理由から、裁判所の新規設置が円滑に行えない状況だったため、執行官を独自に新設することは不可能であった。「執行吏」制度の設置は、1886年制定の「裁判所官制」をまたねばならなかった。 上記のような認識に基づいて、国立公文書館、国会図書館、江藤新平関係文書等にあたり1876年裁判所官制にいたる判決執行の実態を解明する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は、判決執行について論じるための諸前提につき調査を行うと同時に、中央・地方ともに執達吏に係る資料収集に努めたが、執達吏に関する情報が民事判決原本データベースや国会図書館に予想より多く散見されたため、当初予定していた地方調査が1箇所にとどまったため。 当初予定していた地方調査を翌年以降に繰り越したため、特に使用目的は変わらず、資料収集のための旅費及び調査に係わる人件費を予定している。
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