2015 Fiscal Year Annual Research Report
近代イングランドにおける刑事裁判の専門化と法律専門家の役割
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25380015
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
小室 輝久 明治大学, 法学部, 准教授 (00261537)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 治安書記 / 治安判事 / イングランド |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,19世紀のイングランド・ロンドンにおける,治安判事の下僚である書記の役割を明らかにするために,ロンドン首都地域の行政・裁判史料を所蔵するロンドン首都公文書館において,警察治安判事裁判所に関する史料の調査を行うとともに,関係史料の検討を行いました。1848年の警察治安判事裁判所の記録(MSJ/CY/01)によれば,治安判事が多数の窃盗事件を定型的に処理していたことと,書記が文字どおり書類を作成する役割を果たしていたと見られることを明らかにすることができます。 本件研究の意義は,裁判における裁判官と書記の関係性を,イングランドの治安判事による裁判の歴史を通じて明らかにすることです。18世紀のイングランドでは,治安判事による裁判に下僚である書記が積極的に関与し,法律面の助言を与えている例があります。また現在の同国でも,一般市民が裁判官を務める治安判事裁判所において,書記が刑事裁判の審理にあたって法律面の助言を与えることがあります。本件研究は,この両者の関係性について,それが画一的・必然的なものではなく,裁判官と書記のそれぞれの出自と専門性により決まると見られることを示している点に,重要性があると考えています。 すなわち,ロンドンを含むミドルセクス州では 1839年の警察裁判所法の制定により,窃盗事件を中心とする刑事事件の処理が,法曹資格をもつ単独の警察治安判事のもとに移されたため,その結果,19世紀中葉以降の治安判事裁判所と四季裁判所における書記の役割は,文字どおり「書記」としての職務が中心になったと言うことができます。他方で18世紀から現在に至るイングランドの刑事裁判の歴史は,裁判官(治安判事)の専門化が必然的なものではなく,専門裁判官と書記,専門裁判官と陪審と書記,市民裁判官と書記の組み合わせという,司法制度の設計が選択的なものであり得ることも示すと考えます。
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Research Products
(1 results)