2014 Fiscal Year Research-status Report
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25380023
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
飯島 淳子 東北大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (00372285)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 公法学 / 住民 / 住民自治 / 原告適格 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は、平成25年度に引き続き、日本の法制度および判例について、住民自治論の観点と原告適格論の観点の関係付けに留意しながら、分析を広げ、深めるとともに、フランス法を対象とする比較法研究を通じて、本研究課題を追究することに努めた。 まず、具体的な判決を素材とした法制度的研究においては、とりわけ、まちづくりの分野を対象として取り上げた。まちづくり事業は、段階を追って進められ、かつ、多数の関係者に対して各局面に応じた利害関係を及ぼす。例えば、計画策定段階においては、当該計画を不服とする私人(地権者、住民、NPO法人等)がいかなる行為を捉えていかに争うことができるかが問題となるし、計画実施段階においては、損失保障とひきかえに建物の移転・除却を迫れられるような場合に、当該私人の財産的利益のみならず、当該地域のコミュニティとしての利益が、果たしてまたいかに考慮されるべきかが問題となる。かような問題は、領域的自治と非領域的自治という軸、財産権と生活利益という軸、さらには、行政と司法との役割分担という軸を手掛かりに、より広い文脈のなかに位置づけることによって、多くの示唆をもたらすものと考えられる。 また、環境と契約というテーマに関して行政法学の観点から行った研究においては、環境汚染に対する防御型の契約手法(公害防止協定等)と環境創出に係る参加型の契約手法(建築協定等)という2類型を析出し、それぞれにおける私的主体と公的主体の役割、法的拘束力の有無、契約の法的性質等を検討した。そして、日本法の状況をフランス法の状況と照らし合わせることによって、日本における契約手法の活用と財産権尊重思想との間に強い順接関係が存在することを指摘した。このことは、住民論をめぐる比較法研究を通して深めていくに値する課題であると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度は、住民自治論の観点と原告適格論の観点から、法制度と判例を総合的に分析することに加え、フランスを対象とした比較法研究を通して、相対化された視座から問題に切り込み、これを深めることを目的としていたところ、いずれについても、ある程度まで研究を進めることができたが、すべてをカバーするには至らなかった。 まず、法制度および判例の総合的分析に関しては、具体的な判決を素材としてこの目的に迫る手法を引き続き採ることとした。確かに、検討の対象としたまちづくり分野という行政作用の特性ゆえに、ある程度の総合性をも追求することはできたものの、さらに、一定の切り口から抽出した諸行政分野を体系的に取り上げることを目指していく。 また、比較法研究に関しては、日本においては学問的蓄積がいまだ必ずしも十分であるとは言えない契約手法に着目して、典型的な現代行政作用の一つである環境分野を対象に、新規性のある理論的分析を行うことができたと考えているが、比較法研究はなお開拓の途上にある。とりわけフランス法は、法制度と判例のいずれについても、日本法との違いをも含め、研究の余地を秘めている。比較法研究の方法論を踏まえつつ、「住民」概念をさらに広く深く探究していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は、基礎理論研究および比較法研究を継続し、住民論の構築に向けた一定の結論を得ることを目指す。 基礎理論研究に関しては、これまでに検討の対象としてきた行政分野を踏まえつつ、本研究課題にとって必要かつ適切な素材を選びとり、法制度および判例の総合的研究を深めていく。この一年の間に突如として最重要の政治課題に浮上した人口減少社会への対応についても、国レベルおよび地方レベルの動きを冷静に見極めつつ、あくまでも学問的観点から分析を加え、本研究の成果につなげることを試みる。 比較法研究に関しては、フランスにおける地方制度改革を精密に検討することを通じて、住民概念のありようを模索する。フランスにおいては、住民のアイデンティティの中核を形成しているコミューン間の連携の“強制”に加え、県議会の廃止や州の再編までもが企てられようとしている。このことは、国に対置されるカテゴリカルな地方公共団体というにとどまらず、地方公共団体そのものに目を向けさせ、地方公共団体相互間の水平的な関係と垂直的な関係のありようを考えさせるものでもある。どのように区域を区切り、その区域をどのように編成するかを考える際には、必然的に、そこに住んでいる人々(住民)のありようが問われなければならない。この見えにくい根本の課題に取り組むことこそが、本研究に独自性をもたらしうるのではないかと考えている。今年度は、この課題の解明に努めるべく、フランスに赴き、研究者および実務家へのインタビュー・ヒアリングを行って、意見交換・議論をする予定である。
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Causes of Carryover |
本科学研究費補助金を使用してフランスでの実地調査を行う予定であったが、研究分担者として参加している他の科学研究費補助金を主として使用して海外調査を行ったため、それに加えて2度の海外調査を行う時間的余裕がなく、当初の予定をとりやめることとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本研究課題の最終年度に当たる今年度においては、研究成果を形にするためにも、ごく最近になってようやく方向が定まりつつあるフランスの地方制度改革について、最新の理論的・実務的状況を把握する必要があることから、現地調査を行う予定である。
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Research Products
(4 results)