2015 Fiscal Year Research-status Report
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25380023
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
飯島 淳子 東北大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (00372285)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 公法学 / 住民 / 住民自治 / 原告適格 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、一方で、平成26年度に引き続き、日本の法制度および判例を対象とする研究を深め、住民自治に係る諸制度のなかで理論的のみならず実務的にも最大の関心を集めているともいえる住民訴訟に焦点を当てた。具体的には、住民訴訟に係る債権放棄議決をめぐる問題状況が、平成24年4月に下された最高裁判決から3年を経て、司法から立法に舞台を移しつつあることに着目し、この時点で改めて、司法の判断枠組みとあてはめを見直し、問題点を洗い出すことによって、立法作業の準備としての射程をも持つ判例研究を行った。 平成27年度は、他方で、地方自治法理論にとどまらず、憲法理論に遡ることを通じて、新たな角度からの「住民」概念そのものの解明を試みた。具体的には、日本国憲法が、住民自治つまりはある特定の地方公共団体の住民という資格における政治参加(93条)を保障すると同時に、個人の居住移転の自由すなわち個人の住所からの解放(22条1項)を保障していることが、どのように説明されうるのかという課題に取り組んだ。居住移転の自由を保障された住民は、いわば「動く存在」であり、相互に共時的なつながりしか有しない。そのようなつながりに基づく住民相互間の関係を通じた政治体制は、不安定で脆いものであるようにも見える。従来は必ずしも明確に自覚されていなかったこの課題を考察するにあたり、居住移転の自由をめぐる議論状況を整理した上で、“正面突破”の難しさにかんがみ、補助線からの領域的自治の模索を試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は、当初予定していた研究期間の最終年度であり、「住民」論を再構築し、地方自治法と行政法の一つの架橋の仕方を体系的に提示することを目指していた。この目標に照らして、アクチュアルな課題である住民訴訟制度に関して、解釈論と立法論のいずれにおいても一定の成果を得ることができ、また、居住移転の自由という憲法論を踏まえた住民概念の基礎理論研究を深めることができた。 ただし、住民概念をめぐっては、近時、特に立法の動きが重要性を増しており、例えば、いわゆる地方創生政策とそこでの住民個人ないし住民団体の位置付けを探究することなしには、「住民」論を完成させることができない。また、本研究は、比較法研究をも一つの柱に据えているところ、平成27年度は、深刻な社会情勢ゆえに、比較法研究の対象国であるフランスでの実証研究を断念せざるを得なかった。 以上のような法制度の進展への対応と比較法研究の遂行を通じて、本研究の目的の達成につなげたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、まずは、比較法研究に注力する。フランスの地方制度改革は、この10年間をとってみても、政権交代による断絶と継続を経験してきた。コミューン(市町村)の連携の徹底に加え、州の再編を成し遂げた今、フランス法が、地方公共団体の区域、ひいてはその区域に居住する「住民」をどのように捉えているかを改めて考えてみる必要がある。フランスの揺れ動く法制度の根底にある法原理・法思想をも見据えることによって、「住民」概念を析出することを試みる。 平成28年度は、加えて、日本における法制度の変遷を意味づける作業を行う。社会への直接的な働きかけを意図しているかに見える近時の改革が、20年来の地方分権改革とどのように関係づけられるのかを分析し、そのことを通じて、地方自治の究極の目標とされる住民自治がどのように実現されようとしているのかを改めて解明することを試みる。
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Causes of Carryover |
フランス共和国パリおよびエクス・アン・プロヴァンスにおける資料収集および研究会出席・意見交換を予定していたが、テロの影響による治安の悪化に鑑み、平成27年度中の渡航を断念した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
フランス共和国の情勢が安定してから、パリおよびエクス・アン・プロヴァンスに赴き、研究課題の仕上げに必要なフランスでの資料収集や意見交換を行う。
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Research Products
(2 results)