2014 Fiscal Year Research-status Report
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25380028
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
阪口 正二郎 一橋大学, 大学院法学研究科, 教授 (60215621)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 違憲審査基準 / 利益衡量 / 比例原則 / 憲法訴訟 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、近時学界で注目を集めているアメリカ流の「違憲審査基準」とヨーロッパ流の「比例原則」の異同について、1.両者は、憲法上の権利の制約が正当かどうかを、権利と対抗する政府利益の間の利益衡量によって決しようとする「利益衡量」という考え方を共有しつつも、2.利益衡量を階層化した形で行うかどうかという点で異なっているという認識を前提に、(1)なぜそのような違いが生じるのかを「違憲審査基準」の側から歴史的に解明し、(2)利益衡量の階層化は、「違憲審査基準」の「比例原則」に対する優位性を確保できるかどうかを理論的に検証するとともに、(3)権利の制約の正当化を、政府の行為の帰結の正当性に着目する利益衡量に求めることには限界があり、政府の行為の理由に着目する必要があり、それは実際に可能であることを具体的に示そうとするものである。 平成26年度においては、1に関するこれまでの研究の成果として論文「古典的法思想とロックナー判決:ロックナー判決再読」を執筆し、『憲法の基底と憲法論』(信山社、2015年)に寄稿した。 また、2の課題(2)についても、アメリカ流の「違憲審査基準」に関して、近年アメリカでは、その利益衡量における特徴である階層化について、その裁判官の裁量に対する拘束性に関して一定の動揺が見られること、逆にヨーロッパ流の「比例原則」については裁判官に一定の柔軟な裁量を付与しながらも裁量を拘束するための理論化作業が展開しつつあることから、「違憲審査基準」が「比例原則」に対して理論的優位性を有するとは必ずしも言えないのではないかという知見を得るに至った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度においても、平成25年度と同様に、これまでの研究成果を取りまとめる論稿を執筆し、憲法上の権利の政府による制約の正当化が問題になる場合に、その正当化を政府の行為の帰結の正当性に着目する形で権利と対立する政府利益の間で利益衡量を行うという手法に求めることには限界があり、政府の行為理由の正当性に求めるもう一つの考え方に注目する必要があり、それは十分可能であることを試論的に示すことができた。また、利益衡量の手法として見た場合、アメリカ流の「違憲審査基準」とヨーロッパ流の「比例原則」の間でいずれかが理論的に優位するものであるとする結論は疑わしい可能性があることも明らかにできた。 平成25年4月から平成27年3月まで法科大学院長の職にあり、多忙であったが、院長に就任する以前に必要な文献の収集・分析を進め、平成26年度においても夏休みなどを利用して効率的に研究を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度においては、これまで発表してきた本研究の成果に関する学界の評価を組み込んで研究をより一層深化させる予定である。具体的には、第一に、憲法上の権利の制約の正当化可能性を、権利と対立する政府の利益の間の利益衡量として理解する「違憲審査基準」と「比例原則」に通底する「利益衡量」論という考え方は、権利も対立する利益も両方とも絶対的に相手を排斥するものではないとする点で一定の妥当性を有するものの、それはあくまで憲法上の権利を量的に理解するという前提に立ったうえで成立する考え方であることを明らかにする。第二に、この考え方には限界があり、場合によっては憲法上の権利を政府の行為理由に対する排除理由として質的に理解すべき必要性があること、その場合には憲法上の権利の制約の正当化可能性は、政府の行為理由に求められることを示したい。第三に、それは「違憲審査基準」や「比例原則」を放棄しなくてもその運用によって実際的に可能であることを具体的に示すことにしたい。また、こうした考え方は近年法哲学において有力なロナルド・ドウォーキンの「切り札」としての権利論やジョゼフ・ラズの「排除的理由」としての権利論など、法哲学における権利論とも発想を同じくしていることを明らかにしたい。
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Causes of Carryover |
平成26年度には大阪に出張して「違憲審査基準」に詳しい関西在住の憲法研究者と意見交換する予定であったが、私のほうも法科大学院長職にあり忙しく相手も忙しく互いの日程調整ができなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度に関西に主張して関西在住の憲法研究者と意見交換を行う予定である。私のほうは平成26年3月をもって法科大学院長職を降りたため、日程調整は可能になると思われる。
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Research Products
(2 results)