2015 Fiscal Year Annual Research Report
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25380042
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
大日方 信春 熊本大学, 法学部, 教授 (40325139)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 表現の自由 / 商標 |
Outline of Annual Research Achievements |
商標とは、自己の業務に係る商品又は役務について使用する標識として商品又は役務の出所を示す標章のことである。商標法の目的は、商取引関係における需要者の保護、換言すれば、「競合」する事業者間における消費者の「混同」を防止することにあると思われる。 ところで、この商標には2つの機能があるとされている。ひとつが「信号機能」であり、もうひとつが「表現機能」である。この2つの機能をもつ商標は、それ自体が「言語」としての機能をもっているといえる。したがって、商標の保有者、先行使用者に当該商標に対する排他的権利、管理権を設定しそれを執行することは、同一・類似の商標を使用する後続者の表現行為を制約することになる。本研究は、商標の保護と表現の自由の保護という対立する2つの価値の間における調整法を模索したものである。 この2つの価値を調整する法理論として、まずは「商標適格性を限定する」というものがある。商標は「普通の」又は「記述的」な標識には与えられないとするものである。ところが、近時は、記述的標識であったとしても「第二の意味」を得るにいたった標識には商標適格性を認める判例法理が確立している。商標それ自体が「言語」であるとするなら、自由使用できる「言語」の幅は狭まっているのである。また、商標侵害要件から事業者間の「競合」や消費者の「混同」が外されている。同要件により限定されていた商標保護の範囲は、ここでもまた拡張され、したがって、自由使用できる「言語」の幅は狭まっていると言える。 このように商標保護に傾きかけている天秤を表現の自由保護に揺り戻す法理論として、商標のフェア・ユースや報道目的や非営利使用の適用除外があり得る。しかし、この研究を通して、わが国ではこうした自由な言論を保護する法理論が確立されているとはいえないことがわかった。
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