2015 Fiscal Year Research-status Report
租税条約における役務提供所得の課税権配分法理の研究
Project/Area Number |
25380048
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
青山 慶二 早稲田大学, 商学学術院, 教授 (50431664)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 国際租税法 / 租税条約 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、OECDがG20の下で多国籍企業の租税回避問題を扱った税源浸食利益移転(BEPS)プロジェクト最終報告書に関し、国連税の専門家委員会との協調行動が重要なアジェンダとして登場したため、私のテーマである役務提供所得に関する検討スケジュールに遅れが生じた。現在、技術的役務に関する国連モデル条約のドラフトが提出されているが、人的役務全般に関する議論は予想されたペースで進展していない。また、BEPSプロジェクトでも、移転価格の課題のうち役務提供にかかわる部分の実施ガイダンスが未解決のまま残されている。 なお、本年度の研究の概要は以下のとおりである。第1番目に、国連の会議での状況の確認については、2014年の専門家会議で提出された「技術的役務に関する新条文案」(B.Arnold氏によるもの)についての検討を行った。次に、2014年会合での同上案に対する賛否の議論の検証を行った(前向きに拡大したいとする途上国とできるだけ範囲を限定したいとする先進国でかなりの温度差があり)。2番目の研究項目は、税源浸食利益移転プロジェクトの中での人的役務提供に関係する行動項目内容の検討を行った。すなわち、まず行動7(PE該当性の人為的回避)における子会社についての代理人PE該当可能性の拡大の影響を検討した。次に行動8、9、10(移転価格税制)での親会社からの役務に対する支払対価の部分の内容を検証した。最後に、上記検討内容に関する我が国産業界との意見交換を行っている。企業サイドからは、技術的役務の内容が途上国で過大に解釈される懸念が表明されており、国連における先進国コメントと合致していた。 技術的役務についての国連モデルの新条文案及びBEPSの移転価格のガイダンスは、いずれも2016年中に決着する見込みであり、当該内容を確認したうえで研究を完成させるつもりである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
国連税の専門家委員会での本テーマの審議が、BEPS最終報告書への協力の関係で遅延している。また、BEPSプロジェクト中の役務提供関係の一部(移転価格関係)についてもガイダンスが完成していない。BEPSはG20の強力な政治的リーダーシップによるものであり、かつ移転価格税制や条約の濫用などのスケールの大きな課題は、途上国の税収確保の観点から優先的に検討されざるを得ない状況にあると考えられるので、進捗状況の遅れはやむを得ないと考える。 なお、技術的役務に関するモデル条約の新条文は、人的役務に関する課税権配分規定の最先端の課題であり、この点についての結論は2016年に確実に得られる見込みであることから、これらを踏まえた研究成果の取りまとめは十分可能である。 なお、BEPS関連の人的役務提供にかかわる研究内容は、その一部につき21世紀政策研究所の研究報告等で発表済みである。
|
Strategy for Future Research Activity |
2016年は、国際会議への出張による国連専門委員会での新条文及びBEPSガイダンスの確認を踏まえて、これまで取り組んできた人的役務に関する租税条約の配分規定の全体像を網羅したリサーチを完成させるつもりである。目下のところ、技術的役務以外について新しい条文案が提出される見込みはないので、本研究の最終報告書段階での修正は大きくないと予測している。 なお、研究成果については、経団連傘下の21世紀政策研究所で産業界のコメント集約などを経て、日本租税研究協会の「租税研究」など専門誌に発表する予定である。
|
Causes of Carryover |
研究テーマを審議している国連税の専門家委員会の検討状況の遅れとそれに伴い適切な海外出張機会がなかったこと
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
これまでリサーチしてきた租税条約の人的役務提供条項の変遷に加えて、2016年に開催が予定される国連税の専門家委員会において、モデル条約への技術的役務条項の新設が合意される経緯を出張により確認し、併せて欧米の専門家の見解を聴取してくる予定である。 それに加えて、各種税務情報も収集し、途上国と先進国の課税当局のその後の条約改定に向けた対応及び産業界からの評価を確認して、人的役務に関する条約の課税権配分についての今後の方向性を論じる予定である。
|
Research Products
(4 results)