2013 Fiscal Year Research-status Report
国際公益概念と国際組織:公権力行使を規制する手続的および実体的な原則の明確化
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25380060
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
佐藤 哲夫 一橋大学, 大学院法学研究科, 教授 (10170763)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 国際公益 / 国際組織 / 公権力 / 国際連合 / 安全保障理事会 / 国際法 / 法の支配 / 暫定行政機構 |
Research Abstract |
本研究においては、国際社会における公的利益、公的権力など、「公」の概念に着目する。そのために、第一段階として、国際社会における公的利益を扱う先行研究などを検討することによって、国際社会における「公」の概念の形成における背景、要件、基準、意義などについての予備的基礎的な分析・考察を行った。具体的には、資料の調査収集の結果として、S. Peter, Public Interest and Common Good in International Law (Helbing Lichtenhahn Verlag, 2012, Pp. xxv, 248) および A. Suy, La théorie des biens publics mondiaux (L’Harmattan, 2009, Pp. 175) などの最新の有益な文献を入手し、検討を進めた。 「公」の概念については、様々な主体間の利害対立を前提として、必ずしも一義的に決まるわけではないという側面が強く、しばしば権力者によりイデオロギー的に使用されることもある。そのような錯綜した危険な要素・側面にも十分に注意を払うことが必要である。この関連では、ルソーにおける、自らの利益を求める「特殊意思」の総和としての「全体意思」と区別された、公共的利益を志向する「一般意志」の概念が、従来、指摘されてきた。この「一般意志」の概念については、近年の研究では、ロールズの『正義論』における「無知のヴェール」が「公正な視点」を作り出すとの興味深い指摘がなされている(仲正昌樹「第一章 『公共性』と『主体』」仲正昌樹編『「法」における「主体」の問題』御茶の水書房、2013年)。このような研究と、近年のグローバル・ガバナンス、正当性、アカウンタビリティーなどをめぐる議論との接点を見いだすことが課題となろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初、50%のエフォートを計画していたが、本務校の教育および本研究との関連性に鑑みて、日本が当事国となった国際司法裁判所に係属した捕鯨事件における、原告(オーストラリア)と被告(日本)の申述書、答弁書および口頭手続きの弁論書の検討にかなりの時間を割くことになり、結果的には、20~30%にとどまることになった。 他方で、国際社会における公的利益、公的権力など、「公」の概念に関する先行研究の検討は一定程度進めており、本研究の問題意識が国内外において関心を引いている状況が確認できたと言えるほか、「公」の概念についての研究状況も把握しつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度である平成25年度においては、「現在までの達成度」に示した理由により、多少の遅れの状態にあった。そのために、平成26年度においても、国際社会における公的利益を扱う先行研究などを検討することによって、国際社会における「公」の概念の形成における背景、要件、基準、意義などについての予備的基礎的な分析・考察を継続したい。 他方で、第二段階における、国際組織による権力行使、公的権力としての規制のあり方という視点からの検討にも取り組みたい。具体的には、検討を進めてきた、平和(維持)活動の領域における人道法規範の適用可能性、安保理の制裁と人権規範の適用可能性、安保理決議に基づく暫定行政活動と人道法規範・人権規範等の適用可能性、開発援助の領域における世界銀行・IMFへの人権規範の適用可能性などの個別事項を対象としながらも、公権力としてのあり方という視点から、グローバル・ガバナンスの担い手である普遍的国際組織による権力行使を規制する手続的および実体的な原則の明確化を目指すことになる。大まかな計画としては、平成26年度においては手続的原則の側面に重点をおいて進めたい。
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