2014 Fiscal Year Research-status Report
金融法・賄賂防止法の最新事例からみた域外適用理論の再検証
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25380065
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
久保田 隆 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (50311709)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 域外適用 / マネーローンダリング / 外国公務員贈賄防止規制 / コルレス口座管轄 / 米ドル通貨主権 |
Outline of Annual Research Achievements |
経済法の自国領域内の適用は国際法の原則であるが、米国は盛んに域外適用を行ってきた。古くは独禁法等、近年は外国公務員贈賄規制(FCPA)や経済制裁に係る法律に基づき、米国財務省や司法省、金融当局が日本を含む外国金融機関に対し、巨額の制裁金を科す事態が頻発している。国際取引では国際基軸通貨であるドルを使うことが多いが、ドル決済は仕組み上ニューヨークにある米国銀行のコルレス口座を経由する。米国はこの点に着目し、ドル決済があれば他の関連性が薄くても属地主義に基づいて米国法を適用する傾向にあり、各国法管轄の適正配分に反するとの批判を招いている。また、米国法の共謀罪や旅行法で国際問題を国内問題化することで米国法を盛んに適用している。一方、日本等の外国企業は米国法を念頭に置いたコンプライアンスを強いられており、私はこの点に国際法上強い疑問を抱いている。このため、米国に対する法的・実務的対応策を調査し、善後策を検討した。具体的には、①既に提示した理論的課題(「米ドル・コルレス口座」管轄の是非、「米国の過大管轄、他国の過少管轄」の構造改善等)や実務的課題(米国の自制の可能性、米ドル取引ボイコットの実現可能性等)に基づき、日本を含む諸外国の具体的な法的対応をより詳細に検討した。現在は、②将来的な環境変化(米ドル覇権構造の崩壊、人民元の国際化に伴う変化の可能性、bitcoinのような政府の管理下にない通貨の発展に伴う経済法システムの変革の可能性)の可能性についても検討を開始している。 こうした研究成果につき、2014年度の成果と包括的に纏めたのが2015年国際商取引学会年報に掲載予定の「最近の事例からみた『域外適用』論の再検証」と2015年にSpringer社から発刊予定の研究書に掲載予定の英語論文(何れも校正終了)である。なお、2014年9月20日の学会報告は先方の都合で取り消された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初計画では、米国の金融法と賄賂防止法の域外適用について国際法上の問題を段階的に探る予定であったが、文献調査だけでなく、国内外の学会報告や論文執筆、意見交換の機会に恵まれたため、当初計画以上に進展し、国際法だけでなく、(1)域外適用を可能にする金融経済環境や(2)法的拘束力がない筈のソフトローが事実上の拘束力を持つ仕組みについても踏み込んで研究できる環境が整ったため。特に、(1)国際商事法務において研究会を主宰し、定期的に専門家と議論を交わす機会を得たこと、(2)国際法協会通貨法部会や海外の大学のシンポジウム等の招聘を受けて海外学会報告や英語論文発表の機会を得たこと、(3)国際法協会日本支部より域外適用に関する英語論文執筆を任されたこと、が大きく、研究成果の国際発信の環境が予想以上に早く整った。
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Strategy for Future Research Activity |
今まで研究した成果をブラッシュアップして理論的な完成を目指す。具体的には、まず、国内では5月に日本金融学会で報告し、金融専門家や経済学者との活発な意見交換を図る。次に海外では、4月に北京・中国人民銀行で報告(済み)し、各国の国際法・金融専門家と活発に意見交換すると共に、5月にソウル・ソガン大学の国際シンポジウムで金融IT化が既存の法制度にもたらす影響を報告する中で本テーマにも触れ、米中韓の国際法・金融専門家と意見交換する。こうした知見を踏まえて、7月に欧州で再度文献調査し、年末の国際法協会日本支部のJapanese Annual of International Lawの域外適用特集に英語論文を寄稿する。
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Causes of Carryover |
国際商事法務で主宰している研究会において、専門家を招聘した際に支払う謝金や資料代に充てる予定であったが、先方が受取りを拒否したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
書籍代や研究会における資料代に使いたい。
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