2016 Fiscal Year Research-status Report
金融法・賄賂防止法の最新事例からみた域外適用理論の再検証
Project/Area Number |
25380065
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
久保田 隆 早稲田大学, 法学学術院(法務研究科・法務教育研究センター), 教授 (50311709)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 域外適用 / マネー・ロンダリング / コルレス口座管轄 / 米ドル通貨主権 / 仮想通貨 / 国際金融システム / ブロックチェーン / クラウド |
Outline of Annual Research Achievements |
経済法の自国領域内での適用(属地主義)は国際法の原則であるが、例外として許容される域外適用を米国は積極的に行ってきた。近年になって、米国裁判所では域外適用に抑制的な傾向もみられるが、金融制裁や賄賂防止の分野に限れば、むしろ積極化している。本研究は、この動きを一貫して研究するものである。 2013, 2014年度の実例研究を基礎として2015年以降は理論研究に重点を置き、2016年度は、国際学会報告を2本(6/4国際法協会国際通貨法委員会、9/10,11中日民商法研究会)、国内研究会報告を3本(7/15国際コンプライアンス研究会、7/17国連制裁研究会、1/7国際取引法学会契約法制部会)、英語論文を1本(国際法協会日本支部発行のJYIL)、日本語論文を4本、法律雑誌座談会を1本(NBL)、公刊した。科研研究の理論的成果を纏めると共に、仮想通貨や国際金融システム、ブロックチェーンといった外的環境変化との関連を探った。 上記JYIL論文で本研究の一応の取纏めを行い、「米ドル覇権体制を前提とした過度な域外適用に対しては国際法独自の対策が困難な状況を明らかにした点、国際金融システムの相互依存性に着目し、仮想通貨等の新たな動きの進展により、域外適用を抑止できる可能性を示した点」に貢献があると考えるが、法的な先行研究との連続性を重視するJYIL編集委員と議論が分かれた。私の知り得た範囲では、実現可能性の高い国際法独自の理論解決は諸外国で提示されておらず、内外の実務家は一様に私と同じ方向性の解決しかないと話す。 一方、来る5/13早大産研フォーラム、5/28日本金融学会、6/25アジア国際法学会、9/6国際法学会、2018年4/28国際法協会日本支部における学会報告の機会を頂いた。そこで延長期間で自分の研究を再検証し、この分野における「国際金融システム的視座」を学会に問題提起する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
学会報告や論文公表を軸とした理論研究成果の国内外発信は既に相当程度行い、当初計画で企図した研究成果については予想通り達成した。これに加えて、当初予測を上回る以下の展開に繋げることができた。 まず、国際取引法から国際法や金融論学会に対する問題提起として学会論争に繋げた。私の研究成果は、新興学問である国際取引法の観点から(1)「米ドル覇権体制を前提とした過度な域外適用に対しては国際法独自の対策が困難な状況を明らかにした点」において国際法学の理論に対し、(2)「国際金融システムの相互依存性に着目し、仮想通貨等の新たな動きの進展により、域外適用を抑止できる可能性を示した点」において経済学の金融論に対し、問題提起するものであるが、活発な論争を通じて諸学会での報告・論戦の機会を得た。 次に、本研究の深化が派生する最先端分野の研究に大いに発展した。米国の域外適用に変化をもたらす環境変化(仮想通貨やブロックチェーン、クラウド等)を検討することで、域外適用の帰趨だけでなく、新たな先端分野の研究にも繋げた。既に昨年度からこうした分野を含む論考が多いが、それ以外にも、例えば、域外適用の研究から、国連国際取引法委員会(UNCITRAL)が現在研究中のクラウド研究プロジェクトと国際取引法学会の協働作業の責任者となり、2018年3月17日の東京での国際シンポジウム実施に向けて、UNCITRALアジア太平洋センター所長Ribeiro氏やクラウドプロジェクトの中心メンバーであるロンドン大学Walden教授ら数名と調整中である。 さらに、本研究が社会的な啓蒙にも発展した。域外適用の事例研究で扱った資金洗浄対策に関し、パレルモ条約批准に必要な共謀罪創設が国会審議中であるが、共謀罪の創設根拠を巡る議論が乏しい中、刑法学者に代わり私が雑誌等に説明する機会(例:プレジデント17年3月20日号14頁)が増えた。
|
Strategy for Future Research Activity |
既に述べたように、上記JYIL論文で本研究の一応の取纏めを行い、「米ドル覇権体制を前提とした過度な域外適用に対しては国際法独自の対策が困難な状況を明らかにした点、国際金融システムの相互依存性に着目し、仮想通貨等の新たな動きの進展により、域外適用を抑止できる可能性を示した点」に貢献があると考えるが、法的な先行研究との連続性を重視するJYIL編集委員と議論が分かれている。実現可能性の高い国際法独自の理論解決は諸外国で提示されていないが、私の研究では、国際取引法学の問題関心に絞り、国際法学の理論家への遠慮もあり、何が具体的課題か、を複数の先行研究を挙げて示すことはしなかった。既に参考となる英語論文を入手したので、まずはこの部分の補完に努めたい。その際、私のJYIL論文と同じ切り口では発展性がないので、米国の独自制裁を可能とする法令を素材に報告し(9/6国際法学会)、国際資金移動規制の観点から再び国際法協会の先生方に議論を挑む(来年4/28国際法協会日本支部)。 次に、仮想通貨やブロックチェーン、クラウド等の新しい切り口から、国家管轄や域外適用の問題を考えたい。まず、経営・技術専門家とパネル討論し(5/13早大産研フォーラム)、各国の国際法学者を対象に国家管轄権を報告・議論する(6/25アジア国際法学会)。一方、経済学者を対象に国際金融システムへの法的アプローチとの相違を議論し(5/28日本金融学会)、そうした成果を9月中旬に予定される中日民商法研究会で世に問い、私が責任者として来年3/17に国連国際商取引委員会(UNCITRAL)と協働で東京で開催する国際シンポジウム(上述)に生かしたい。
|
Research Products
(8 results)