2013 Fiscal Year Research-status Report
標準規格必須特許の権利行使に関する独占禁止法からの規整
Project/Area Number |
25380074
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
林 秀弥 名古屋大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (30364037)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 知的財産権 / 権利行使 / 独占禁止法 |
Research Abstract |
知的財産権制度は、技術知識の創造インセンティブを確保しながら、創造された知識の普及を促進することによって経済成長に貢献しようとする制度である。しかし近年、とりわけIT(情報通信技術)分野においては、この制度が所期の目的を達成するものになっていないとする議論が、アメリカを中心として盛んに展開されている。アメリカにおいては、法学者と経済・経営学者との共同研究を通じて、① 知的財産権の権利確定が困難であり、知的財産権の公示機能が損なわれている、② 製品の生産に必要不可欠な知的財産権が非常に多数に上り「特許の藪」と呼ばれる状況が存在する、といったこの分野の知的財産権の態様が、知的財産権制度の運用ルール(権利の保護範囲や権利執行ルール)と相俟って、企業の行動を変化させホールドアップ問題に代表される非効率性が生じていることが次第に明らかにされてきた(図1)。しかし、我が国においては法学者と経済学者との学際研究は必ずしも十分に行われてきたとは言えず、IT分野における知的財産権制度のあり方に関する体系的・学際的な研究は、ほとんど皆無に近い状況にある。 本研究では、下記の課題群を明らかにすることを目指した。 1) 日本におけるIT分野の知的財産権の態様や知的財産権の運用ルールはどのような特徴を持っているか。また、これらは主要国と比較してどのような相異があるか。 2) IT分野の知的財産権の態様や知的財産権の運用ルールの特徴は、企業の標準規格の策定やライセンス行動にいかなる影響を与えるであろうか。また、これらの企業行動は主要国間での知的財産権の運用ルールといかなる関係を持つであろうか。 3) 企業は各国の知的財産権制度の運用ルールの相異を考慮して、どのような行動を採っているであろうか。この種の行動は主要国での知的財産権制度の運用ルールや国際的な制度調和にいかなる影響を与えるであろうか。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者(林)は、企業のイノベーションと独占禁止法、知的財産権制度の関連についての法理論研究に長年携わってきており、IT分野における知的財産権制度のあり方について強い問題意識を持ち、ICT分野における日本の知的財産権制度のあり方に関する研究を行ってきた。近年、とりわけ知的財産権制度の運用ルールとグローバル企業の行動の関連を解明することが必要不可欠であるとの認識を有するに至っている。実際、本研究課題に密接に関連した訴訟であるアップル・サムソン訴訟に関して、知的財産高等裁判所が行った意見募集に対して、知的財産権制度の運用ルールのあり方(標準必須特許に係る知的財産権侵害に対する損害賠償や差止請求のあり方)をめぐって意見提出を行った(「平成25年(ネ)第10043号事件に対する意見書」)。本研究は、本意見書にて表明した見解を、さらに学術的に深化させようとするものであり、研究はおおむね順調に推移している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は、ICT製品の標準に関する知的財産権に焦点を当て、国際的な標準策定機関によって行われたICT製品に係る必須標準規格に関連する知的財産権のライセンスをめぐる企業行動が、国によって異なりうる知的財産権制度の運用ルールといかなる関係を持つかを、比較法研究を通じて明らかにすることである。今後は、より具体的には、主要国における知的財産権制度の運用ルールの比較検討をベースにしながら、下記の2つの課題の解明を行うことを目指す。 1) 各国の知的財産権制度の運用ルールの相違は、グローバル企業の標準規格の策定やライセンス行動にどのような効果を持つであろうか。また、この種の企業行動は、各国が採用する知的財産権制度の運用ルールにどのように影響するであろうか 2) 企業行動と知的財産権制度の運用ルールの関連は、知的財産権制度のパフォーマンスにいかなる効果をもたらすであろうか。この点を考慮するとき、あるべき知的財産権制度の運用ルールはどのようなものであろうか。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
消耗品費の端数として、230円が残存した。 今年度消耗品費として合算使用する予定である。
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