2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25380077
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
丸谷 浩介 佐賀大学, 経済学部, 教授 (10310020)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 社会保障法 / 生活保護法 / イギリス |
Research Abstract |
研究初年度にあたる当年度は、生活保護法紛争における喫緊の課題をピックアップし、そのうち三つについての研究に着手した。 一つは、生活保護法63条による費用返還(急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けたときは、保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して、すみやかに、その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない)に関する考察である。これには(1)資力該当性、(2)資力発生時期、(3)「等」の内容、(4)保護の実施機関の定める額といった多様な論点が含まれる。本年度はこのうち、保護の実施機関が法63条に基づく費用返還を命ずる際、いかなる調査義務を負い、いかなる事情を説明しなければならないか、という論点について考察した。その結果、明文で調査義務や教示義務が規定されていないとしても、法の趣旨目的を実現するため、保護の実施機関が負うべき法的義務を導出した。本研究発表後にはこの論点に関していくつかの裁判例が言及し、本研究と同様の結論を導くに至っている。 第二は、法27条における指導指示の規範的根拠と法的性格に関する研究である。イギリス法を含めた歴史・文献・判例研究に着手した。論文執筆に着手しているが、本年度中公表するには至らなかった。 第三は、稼働能力活用要件について、イギリス法の研究を行った。イギリスの公的扶助法がユニバーサル・クレジットという制度へと改正され、就労を給付の条件とすることがより強化された。この法改正において、稼働能力の評価判定と稼働能力の実現について、いかなる議論が行われたかについて研究を行った。その結果、日本の議論状況に新たな視点を加える可能性を見出すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
保護の補足性と指導指示の法的性格に関する研究については、研究に着手し、おおむね順調に進展している。論文執筆までにはそれほど時間を要するものではない。 法63条における費用返還義務に関する判例分析、歴史実証、学説分析、行政法学的観点からの検討については、当初の計画以上に進展している。既にその一部を「生活保護法63条費用返還における調査義務」と題し、賃金と社会保障NO.1588に公表している。 イギリス法における稼働能力活用の事例(Reilly & Anor, R (on the application of) v Secretary of State for Work and Pensions [2012] EWHC 2292については既に分析を終え、既に「中間的就労の「危うさ」―イギリスにおける立法と司法」として賃金と社会保障NO.1606に掲載している。 研究会での報告については既に2013年9月の社会法研究会やその他研究会で研究成果を報告しており、他の研究者との意見交換を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは法27条における指導指示の根拠、法的性格、紛争解決についての論文をまとめることが必要である。 2013年末に改正された生活保護法の体系的理解のために、申請に関する事項と扶養義務に関する事項を研究する必要がある。これに加えて、稼働能力活用要件の多角的な把握のために、イギリス法を含めた研究を継続することになる。
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