2013 Fiscal Year Research-status Report
オランダの「アクティベーション政策」と社会保障改革
Project/Area Number |
25380080
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
廣瀬 真理子 東海大学, 教養学部, 教授 (50289948)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | オランダ / アクティベーション / 社会保障改革 / 最低生活保障 / 公的扶助法 / 福祉国家 |
Research Abstract |
本研究の目的は、EUにおいて福祉国家改革の一環として導入されている「アクティベーション政策」(就労と社会保障を連携させた労働市場の活性化)について、オランダの事例に分析・検討を加え、日本の社会保障改革の示唆となる点を見出すことである。初年度の文献研究では、「アクティベーション政策」を導入したオランダの1990年代以降の福祉国家改革について、EU法政策と関連づけながら詳細に検討することを軸にした。具体的には以下の3つの柱に沿って研究を進めた。 第1に、EUの「アクティベーション政策」のオランダへの影響であるが、EUにおける「社会的包摂政策」は、もっぱら労働市場への「参加」を前提にしており、その文脈において「アクティベーション政策」が促進されてきた。オランダにおいても、若年者やひとり親(母親)などに対して「アクティベーション政策」が促進されている。しかし他方で現実には、労働市場の規制緩和が不安定就労層を生み出すなど、雇用の質を変化させている。 第2に、オランダの近年の「労働市場と社会保障」を一体化した改革の特徴について、明らかにした。オランダでは、「分権化」と「市場化」の促進が、かつての伝統的な政労使の合意にもとづく政策決定を遠ざけて、新自由主義的な改革へと傾斜している。 そして第3に、最低生活保障の視点から「アクティベーション政策」と公的扶助法の関係について検討するために、「アクティベーション政策」の基盤ともいえる「能力に応じた就労法(WWNV)」について注目した。しかし、同法の施行が延期され、新法に置き換わるため、新法の制定の背景と意義についてはまだ十分に把握しておらず、引き続き検討を要する。 以上が初年度の研究の主な内容であるが、研究はおおむね順調に進展している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の文献研究を通して、まず、EUにおける「労働市場への統合策」について概観した。そして、最近のオランダの社会保障法制度の改正動向について、整理を行った。すなわち、一般老齢年金法(AOW)、健康保険法(ZVW)、特別医療費補償法(AWBZ)、児童手当法(AKB)、公的扶助法(WWB)などの改正内容と課題について明らかにした。 また、「アクティベーション政策」に照らし合わせて、若年失業者やひとり親(母親)家庭の就労促進策と社会保障の関係についても現状の課題をより具体的に明らかにした。たとえば、ひとり親(母親)の就労と子育て支援策に関して、縦割りの制度分析ではなく、子育て支援ニーズへの対応策(児童手当・休業保障・保育サービスなど)として、それぞれの法制度の特徴と相互の関連性について検討した。 そのほか、「参加」をキーワードとした社会支援法(WMO)による社会福祉の分権化についても、近年の法改正の基礎自治体への影響についての事例を積み重ねて、現地調査の準備資料を作成した。 さらに、本研究は、1990年代以降に推進されてきた「アクティベーション政策」に焦点を当てているが、その根底にある20世紀後半からのオランダの福祉国家の発展と変容の経緯について、歴史的背景をも視野にいれて、オランダの急速な福祉国家の構築過程について新たな文献を加えて検討を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目には、さらに文献研究を進めるとともに、「アクティベーション政策」を推進するために、労働市場への復帰(参加)支援の役割を強化された基礎自治体が、失業保険給付やその他の社会保障給付と就労促進策をどのように連携させているのか、現地調査を通してその実態と課題について明らかにする予定である。 そして、最終年には、「アクティベーション政策」が、労働市場への復帰(参加)とその後の安定就労に結びついているのかどうかを明らかにするために、現地で「地域における就労支援の連携」を対象者側の視点で捉えたヒアリング調査を行う。また、その際の就労支援と最低生活保障のあり方についても、「アクティベーション政策」と新たな最低生活保障制度が、労働市場と社会保障をつなげて、排除された(または排除されそうな)人々を「参加」に導くものになるのかどうか、検討を加える。最終的に、オランダの事例から日本の社会保障制度改革の示唆となる論点を見出すことにしたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
初年度の前半は、EUやOECDなど国際機関の資料を電子データで集めることが多かったこともあり、その整理に多くの時間を費やした。また、参考文献として購入予定の書籍の発行時期の遅れなどから、洋書の申し込みから購入までの期間が短く、年度内に入手が困難となったものもあった。しかし、文献リストは準備できているため、書籍を吟味してから購入すべきと考えて、次年度に残した。 昨年度は購入しそびれてしまったが、すでに購入を希望する洋書があるので、「次年度使用額」は、それらの洋書の購入に充てる予定である。
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