2014 Fiscal Year Research-status Report
オランダの「アクティベーション政策」と社会保障改革
Project/Area Number |
25380080
|
Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
廣瀬 真理子 東海大学, 教養学部, 教授 (50289948)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | オランダ / アクティベーション / 労働市場 / 社会保障改革 / 公的扶助制度 / 参加法 / 地方自治体 / 福祉国家 |
Outline of Annual Research Achievements |
採択2年目の前半は、前年度に引き続き、オランダの家族・労働市場・社会保障を結びつけた近年の改革について、文献を中心に研究を進めた。2014年4月には、日本学術会議の法学委員会が主催する同性婚のあり方を考えるシンポジウムにおいて、国際的な人権団体であるHuman Rights WatchのLGBT権利プログラム代表者であるBoris Dittrich氏を迎えて、コメンテーターと討論者として、オランダの近年の家族と社会保障と人権をつなぐ課題について議論に参加した。 また、オランダの福祉国家におけるソーシャル・セーフティネットの改革についても、本研究課題のひとつの軸として注目してきたが、2013年に予定されていた公的扶助制度改革は、参加法(Participatie Wet)に法律名が変更され、施行が2015年に延期された。さらに、地方分権化の文脈において、長期介護法(Wet Langdurig zorg)と児童・青少年ケア法(Wet Jeugdzorg) も同時に改正法が施行されることになった。これらの改革動向と論点について整理し、2014年6月に大阪市立大学のメンバーを中心とする「21世紀福祉レジーム研究会」において発表を行った。 その後、勤務先大学より研究休暇を取得することになり、2014年10月より2015年3月まで、オランダ・ライデン大学の国際アジア学研究所(International Institute for Asian Studies: IIAS)において研究する機会を得た。そして、その期間の一部を、本科研費研究にあてることができた。このようなオランダ滞在の機会により、当初の本科研費研究計画よりも数多くの大学研究者や研究所などの関係機関を訪問することができ、また、近年のオランダの社会保障法政策の改正動向についても、多くの知見を得ることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度と2年目(本年度)の研究計画に沿って文献研究を進めてきたが、今回のオランダ滞在中には、科研費研究においても、現地での文献の閲覧・収集や関係機関の訪問などを非常に効率的に行うことができた。その点から、本科研費研究において「当初の研究計画以上に進展した」といえる部分もあった。 具体的には、現地でしか入手できないようなオランダ語の文献購入や、研究テーマに即したシンポジウムの聴講および、関連機関へのヒアリング調査を行うことができた。 加えて、先の「研究実績の概要」にも示したとおり、現地では、当初の研究計画を立てた時点では予定されていなかった新たな法改正が次々と施行に移されたことから、いち早く最近の抜本的な社会保障改革の全体像を把握できたことは、本科研費研究にとってたいへん大きな収穫となった。労働市場と社会保障をつなぐ制度改正についての詳しい現地調査は、制度がある程度定着するとみられる次年度に実施する予定である。 以上の経緯から、本研究は全体として「おおむね順調に進展している」といえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
本科研費研究の研究対象としたオランダでは近年、市民の「参加」を政策の軸に加えた急進的な社会保障改革が導入されつつあるが、「アクティベーション政策」もまた、労働市場への「参加」を基盤として重視されている。しかし、オランダで労働市場と社会保障を結びつけた新たな制度・政策がどのように定着していくのかについては、現在はまだ過渡期であり、引き続き時間をかけて分析・検討することが重要である。というのは、それらの改革の具体策には、日本における社会保障改革ともかなり共通する点が見いだせるからである。 たとえば、オランダの地方分権化を軸とした社会保障・社会福祉行政の変化は、同国においても、今後さらに自治体間格差などを生み出すことが懸念されている。こうした改革により生じた新たな矛盾や課題は、日本の将来のセーフティ・ネットのあり方などについて検討する上でも重要な論点を提供しており、オランダの改革の成果と課題について分析することは、日本の社会保障の将来を展望する上でも意義があるものと考える。 また、オランダで実施されている諸改革の背景には、EU政策の影響も見いだせることから、今後は、EU統合が直面している課題や、EU加盟国間にみられる社会・労働政策の多様性についても視野を広げて考察する必要があるといえる。
|
Causes of Carryover |
本科研費研究計画が採択された後に、勤務先大学より約半年間の研究休暇を取得が決まり、オランダ国ライデン大学国際アジア学研究所(IIAS)に在籍する機会を得た。そのため、本科研費の予算は、本年度は主に資料の購入と特定のシンポジウムへの出席など部分的な使用にとどめて、次年度に現地調査や、研究会の開催など、研究成果の社会へ還元方法も念頭において、より重点的に使用するように計画した。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の科研費研究予算の使用計画については、まず、昨年度に予定しながら購入が締切り時期に間に合わなかった英語・オランダ語の書籍を購入する予定である。 また、オランダでは、2015年より重要な法改正が次々と段階的に施行されつつあることから、それらの改正と「アクティベーション政策」の動向について次年度には、より深めた現地調査を行う予定である。 さらに、可能であれば、欧州の研究者を招聘してEU加盟国における「アクティベーション政策」と社会保障(ソーシャル・セーフティネット)に関する公開研究会またはシンポジウムを日本で開くことも計画したい。そうすることにより、本科研費を重点的に使用し、かつ社会に還元できるように発展的に活用する予定である。
|
Research Products
(1 results)