2015 Fiscal Year Research-status Report
オランダの「アクティベーション政策」と社会保障改革
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25380080
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
廣瀬 真理子 東海大学, 教養学部, 教授 (50289948)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | オランダ / アクティベーション / 社会保障改革 / 労働市場 / 最低生活保障 / ワークフェア / 地方分権化 / 非正規雇用 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、オランダの近年の社会保障改革の軸として重視されている「アクティベーション」改革の現状と課題について、文献研究と実証研究の両面から分析を加えてきた。 EUレベルでのアクティベーション政策については、文献研究とともに、ヒアリング調査やブリュッセルで開催されたシンポジウムへの参加などを通して、欧州2020に向けた福祉国家改革のなかで「社会的投資」をめぐる議論について多角的に検討する必要があることが明らかにされた。 また、オランダでは、2013年に施行予定であった公的扶助と障害者雇用と若年障害者への社会給付制度を統合した「能力に応じた就労法(WWNV)」が、「(労働市場・社会)参加法(Participatiewet)」に変更となり、さらに新法の導入時期も延期されて2015年施行となった。そのため、その具体的な影響や課題については、継続的な研究が必要になったことから、本研究期間の1年延長を申請した。 特記すべきは、本研究期間中に現地に半年間滞在する機会が与えられたことである。それは、とりわけ実証研究面で多くの知見を得ることになった。とくに近年のオランダの社会保障改革が、地方分権化を通じて、より厳しい引き締め策にさらされている点が明らかにされ、また、日本では高く評価されているオランダのパートタイム就労の実態についても、有期雇用の増加が不安定就労層に与える影響を含めて多面的に考察することができた。 本研究の成果の一部について、2016年1月に青山学院大学で開催された「女性研究者の研究環境の改善に関する懇談会」で報告を行い、フロアからの質疑と議論から多くの示唆を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究期間に予定した現地調査の期間よりも長く現地に滞在して、資料収集やヒアリング調査、またシンポジウム・研究会などへ参加することができたのは、研究を充実させる上で貴重な機会となった。1年間、研究期間の延長を申請したのは、研究の遅れからではなく、むしろ実証研究面では予定したよりも充実した研究を行うことができたといえる。現地では、ウトレヒト大学の社会保障法学者や社会学者のとの議論を通じて、近年の社会保障改革について多くの視点を学ぶことができた。また、ティルブルグ大学で市民社会論を研究している教授と社会・文化研究所の研究員とは、日蘭の社会保障の多元主義を含む現代社会の比較分析に関して、今後、共同研究を進めることが決まった。 研究期間の延長申請を行った理由は、研究テーマにあげたオランダの労働市場に密着した社会保障法・制度の施行が、延期されて2015年に実施されるようになったことと、本研究期間中に半年間(2014年9月から2015年3月まで)のサバティカルの取得が決まり、オランダ・ライデン大学の国際アジア学研究所に在籍する機会を得たため、本研究の旅費予算に余裕ができたからである。 2015年に段階的に施行された社会保障および関連法(これまでの公的扶助法、社会雇用法、若年障害者のための就労と就労支援法、非正規労働者法、長期医療・介護保障法などの改正・再編を含む)については、帰国後に持ち帰った資料の整理をはじめており、最新の法改正の動向については、延長がみとめられた研究期間に研究を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究のテーマである社会保障と労働市場とを連携させたオランダのアクティベーション改革は、2015年に抜本的な改革が段階的に実施に移されたところであり、その影響と課題について考察するには、さらなる時間が必要である。 なかでも若年非正規労働者の増加と、ひとり親家庭が抱える就労と家族的責任との間のディレンマは、このアクティベーション改革における中心的な課題といえよう。 オランダでは、法的には正規職と非正規職の間で均等待遇が実現されているとはいえ、有期雇用や「請負」などの不安定就労者が増加している現実には、しばしば日本で評価されている「パートタイム雇用の成功モデル」とはかけ離れた面も見いだせる。また、こうした非正規雇用の増加は、オランダにおいても日本においても社会保障制度などに大きな影響を与えるものと考えられる。 そこで今後の研究計画において、2015年の社会保障および関連法の改正を含め、さらにEU政策との関係も視野に入れて分析・検討を加え、これまで積極的労働市場政策について遅れがちであった「大陸型」の福祉国家の近年の急進的な改革の一事例を通して、日本の社会保障・労働市場改革への示唆を得ることにしたい。
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Causes of Carryover |
本科研費の採択後に勤務校においてサバティカルを取得することになり(2014年9月‐2015年3月)、勤務校から支給された研究補助金で旅費を捻出した。同時期に科研費の重複使用がみとめられず、本科研費の支出に余裕が生じたため、研究期間の1年延長を申請した。 もうひとつの理由は、前述したように、オランダの社会保障制度の抜本的な改革が、当初の予定よりも延期となり2015年に実施されたため、研究期間を延長して継続的な研究を行うことは、研究目的に沿って科研費を有効に使用するという点からも意味があると考えたからである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究期間の1年間の延期がみとめられて、最終年度は、前年度に購入を希望しながら、海外からの取り寄せのため入荷時期が間に合わなかった書籍の購入と、現地調査および社会政策に関する国際会議の出席に科研費を使用する予定である。 また、予算に余裕があれば、EUの社会政策の現代的課題や、オランダのアクティベーション改革に関して、現地から研究者を招聘して公開研究会を開催することも検討している。
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Research Products
(2 results)