2014 Fiscal Year Research-status Report
認知心理学アプローチと実証分析による過失犯抑止研究
Project/Area Number |
25380089
|
Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
白石 賢 首都大学東京, 社会(科)学研究科, 教授 (90526427)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
白石 小百合 横浜市立大学, 総合科学部, 教授 (70441417)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 過失 / 因果関係 / 認知心理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、過失の発生原因を認知心理学的にとらえ、過失抑制のための因果関係分析を、労働安全衛生関係データ等をもとに計量的に検証し、その検証結果に基づき、健康的に問題のある人などへの過失責任のあり方や科学的法定証拠に関する統計的因果の扱い、効果的な安全規制・政策のあり方、そして責任論のあり方を検討し、刑法の過失犯を再検討することとしている。 そして本研究は3年計画を予定し、一年目の平成25年度には認知心理学的な「注意」「意思決定」「記憶」等についての知見の整理を行った。 二年目の、本年、平成26年度は、25年度から先行して作成していた労働安全衛生データに基づく計量分析を行い、過失の抑制には刑法的な事後的規制より、事前的な行政的な指導の重要性を明らかにすることができた。 また、あわせて理論的な検討として、個人・企業の過失と企業制裁としての課徴金のあり方についての問題について、改正景表法を例に検討を行った。 これらの結果については、『都市政策研究』『自治研究』上に公表されている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(理由) 平成26年度は当初計画で予定していた労働安全衛生関係データを用いた実証分析を行うこととしていた。この分析は、理論研究を支える本研究の一つの柱でもある。 実証分析では、全国労働局の入手可能なデータを用い「監督」が労働災害に与える効果を推計した。我が国の場合、データが産業別にしか得られないとの制約があるものの、一般予防効果がモデルでとらえられる可能性は高いと考えられたため、モデルの基本形としてGray and Scholz(1991)を採用した推計を行った。この際、都府県にネストした産業×時系列というマルチレベルモデルを用いた分析を行っている。 結果を見ると、「監督」を2期前の変化率としているモデルでは、「監督」のパラメータが1%水準でマイナスに有意となっている。また、「雇用者数」と「労働時間」の変化率の符号はどちらもプラスとなり予測された符号と一致しており、また、雇用者数変化率についても10% ではあるが有意となっている。しかしながら、「監督」の変化率を、当期、1期前としたモデルについては、「雇用者数」と「労働時間」については符号条件が一致しているものの、「監督」については1%水準で負に有意となり、事前に予想した符号条件とは一致しなくなった。この解釈についてはさまざまな可能性が考えられようが、本推計の結果からは、日本においては、事業場が定期監督等を一般予防効果につなげるのは、監督実施のレベルではなく変化率であり、タイミングとしては2年程度前との変化率を認識しているのであるという解釈となる。このことにより、過失の抑制には刑法的な事後的規制より、事前的な行政的な指導の重要性を明らかにすることができた。 また、あわせて理論的な検討として、個人・企業の過失と企業制裁としての課徴金のあり方についての問題について、改正景表法を例に検討を行った。
|
Strategy for Future Research Activity |
(今後の推進方策) 平成27年度は研究最終年度として、26年度の実証研究と25年度の「注意」などの基礎的な知見との融合による刑法的な理論化(脳倫理、責任論、刑事政策論)を行うこととしている。 また、あわせて、26年度から開始した不祥事・過失の問題の背景にあるストレスなどに関するデータベース作成を行い、その取りまとめを行う。 さらに、過失は避けられないものであるとした場合、企業や組織として、対処すべきことは何か、何を個人に向けて教育すべきか等についても考察を進める。
|
Causes of Carryover |
25年度当初に行う予定であった刑法の過失犯研究の判例動向調査のデータ解析について、人件費を用いて行う予定であったが、これを27年度に理論研究とともに行うこととし、異なる不祥事・過失に関するデータベース作成にかかる人件費に充てている。この作業は比較的単純作業であったため人件費が一部未使用となった。また、同様の理由で判例検索テータベースの利用が27年度にずれ込んでいるため、その他が未使用となっている。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
27年度は判例研究等、理論研究が中心となり、最終的には学会発表につなげることになる。このため、物品費による書籍の購入・学会等参加旅費など、全体としての執行計画には変更はない。
|
Research Products
(3 results)