2013 Fiscal Year Research-status Report
時間的に制限された差止めの理論的根拠と実際的機能―実体法・手続法からの立体的考察
Project/Area Number |
25380100
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
宮澤 俊昭 横浜国立大学, 国際社会科学研究院, 准教授 (30368279)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 差止請求権 / 環境 |
Research Abstract |
本年度は、研究計画に従い、次の二つの作業を行った。 第一は、民法学における差止請求権理論とは異なる体系のもとで差止請求権を論ずる議論が存在するのか、という問題意識のもと、民法学における差止請求権をめぐる議論の整理に基づいて、知的財産権、とりわけ特許権に基づく差止請求権の制限をめぐる議論を検討した。その結果、民事実体法理論としての差止請求権理論が基礎とされた議論が行われていることが判明した。そのため、実体法理論と手続法理論の関係を研究対象の中心にすえる本研究においても、民事実体法理論としての差止請求権理論を前提として考察を進めることが適切であるとの結論を導きだしえた。なお、本年度の研究から知的財産権に基づく差止請求権をめぐる議論についての新たな検討の視角も析出しえたが、本研究とは別の課題として取り組む必要があることも判明した。 第二は、実際に裁判となった事案の分析を行った。研究計画で示した通り、諫早湾干拓事業における潮受堤防排水門の開門の是非が争われている事案について、まず、現地での報道関係者等との情報交換等を通じて事案の実態の把握に努めた。そのうえで、排水門の開門を認めた判決である福岡高判平成22年12月6日判時2102号55頁と、排水門の開門を禁じた仮処分決定である長崎地決平成25年11月12日(平成23年(ヨ)第36号、平成24年(ヨ)第5号、同第27号)との関係について検討を行った。この検討から、将来に向けた差止が問題となる事案においては、執行手続においてもなお、実体法的な権利関係の存否の争いが事実としては続いており、これに対応した理論が必要となることが浮き彫りとなった。なお、この問題について、矛盾する判決が出た場合に後訴が優先する旨の見解が示されているところであるが、本年度の検討からは、実体法的視点からみて、そのような見解を採ることはできないという結論が示された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、裁判実務が先行して認めている時間的に制限された差止めの理論的根拠を探ることを目的としている。また、現在の議論において、差止めにはフォーラムセッティング機能があるとされていることについて、その理論的根拠・実際的機能を明らかにすることも、本研究では研究目的に含めている。 この目的を達成するために、本研究では、①民事実体法理論と民事手続法理論からの複眼的な考察、②実際に裁判となった事案の分析、③憲法理論・行政法理論からの考察、④比較法的手法による考察という、四つの作業を行う計画としている。本年度は、このうち、①として示した民事実体法理論と民事手続法理論からの複眼的な考察の前提となる、民事実体法理論としての差止請求権理論の整理と検討と、②として示した実際に裁判となった事案の分析の二つの作業を中心にして行った。 この二つの作業は、本研究の出発として位置づけられるだけでなく、全体の基礎をなすものである。とりわけ、②として示した実際に裁判となった事案の分析については、諫早湾干拓地潮受堤防の排水門の開門を5年に限って認めた福岡高判平成22年12月6日判時2102号55頁と、それと相反する結論、すなわち排水門の開門を禁止する仮処分決定を示した長崎地決平成25年11月12日(平成23年(ヨ)第36号、平成24年(ヨ)第5号、同第27号)との関係も新たに検討の俎上に上ることとなった。また、この紛争は、前記福岡高判の確定判決に基づいた執行手続の中でも実体的に争われている、この点についての検討によって、民事執行手続における実体法上の権利の位置づけという問題との関連で、本研究において重要な基礎を形成できた。この意味のおいても、本年度における研究は、今後の研究の進展に大きく寄与することとなる。 以上のような成果を上げることができたため、本年度の研究は、おおむね順調に進展していると評価した。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成26年度の研究計画としては、次の三つの作業を行うこととしている。 第一は、これまでの民事手続法学における差止めをめぐる議論の全体像を、救済法の視座に基づいて差止訴訟・執行過程の解釈論・立法論を展開する研究等を軸に整理・検討することである。 第二は、将来給付の訴えの請求認容確定判決の既判力を巡る議論の検討である。訴訟法上、差止請求の訴えは、現在原告が有している差止請求権に基づく給付の訴えであり、将来給付の訴えそのものではないと解されている。しかし、将来における実体法上の作為・不作為義務を求める差止請求は、将来の不確定要素を前提として給付判決を求めるものである。そのため、将来給付の訴えの請求認容確定判決の既判力をめぐる議論を参照した議論がなされている。本研究の目的との関わりで、このような差止請求の訴えの手続法的位置づけの問題の検討が、極めて重要な意味を持つ。なお、この議論は、現在、消費者団体訴訟制度との関わりで議論されることが多い。消費者団体訴訟制度については、2013年に成立した「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律」によって、消費者の集合的な損害に対する賠償について団体が一定の役割を果たす消費者集合訴訟制度が新たに導入された。消費者団体訴訟における差止請求権も、この制度との関係を考える必要がある。そこで、本年度は、この消費者集合訴訟制度をも視野に入れた検討を行う。 第三は、訴訟上の和解(民訴法267条)に関する議論の検討である。訴訟上の和解は、判決に比肩する事件処理機能を果たしているとされ、そこには裁判官の積極的な関与があるものとされている。この裁判官の積極的関与という要素は、差止めのフォーラム・セッティング機能にも認めうる要素である。このような視点から、訴訟上の和解に関する民事手続法学における議論を検討する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
申請した研究計画における応募額に比して決定された交付額は削減されていたため、それぞれの費目で予定していた計画よりも費用を圧縮する必要が出た。物品に関しては、購入を計画していた書籍を選別することにより、適切な額に調整することができたが、旅費に関しては、計画していた調査・資料収集のための出張を取りやめるという形でしか対応ができないため、適切な額への調整が難しく、結果として、次年度使用額が生じてしまった。ただし、2万円程度と、交付された直接経費の3%弱であり、計画に沿った使用を行ったと言える範囲にとどめることができたと考えている。 次年度使用額は2万円程度であるため、申請した研究計画に応募額に比して交付額が削減された額には及ばない。そのため、次年度においても、当初計画していた物品購入および調査・資料収集のための出張を取りやめる必要が出てくる。そこで、次年度使用額に関しては、主として物品購入に充てることとし、調査・資料収集のための出張の計画に合わせて、使用額の調整をはかることとする。
|
Research Products
(1 results)