2014 Fiscal Year Research-status Report
時間的に制限された差止めの理論的根拠と実際的機能―実体法・手続法からの立体的考察
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25380100
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
宮澤 俊昭 横浜国立大学, 国際社会科学研究院, 教授 (30368279)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 差止め / 民法と憲法 / 団体訴訟 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、研究計画を一部前倒し・変更をして、次の三つの作業を行った。 第一は、救済法の視座に基づいて差止訴訟・執行過程の解釈論・立法論を展開する民事手続法学における研究の整理・検討である。そこでは、民事手続の過程において、「権利存否判断過程」と「救済形成過程」とに分離をして分析がなされていた。すなわち、「権利存否判断過程」は、過去志向的な事実認定と法適用の過程であり、伝統的な裁判規範が通用するのに対し、「救済形成過程」は、将来志向的な具体的救済形成過程である。後者では、裁判手続きで当事者・関係第三者が具体的な救済の在り方に関するやりとりを活性化できるフォーラムを担保する新たな手続規範の創造が求められる。このような新たな規範の創造をも視野に入れて差止めを論じるためには、民事実体権の根拠規定たる民法のみならず、国家機関の根拠規定たる憲法をも含めた基礎理論に立ち返る必要がある。 そこで、第二に、民法と憲法の関係をめぐる議論の整理・検討を行った。そして、民法学と憲法学の問題関心のズレから議論が錯綜していることが判明したため、この点を踏まえて、新たに議論の全体を整理し、民事実体法上の権利の根拠の在り方について現在の議論の到達点を確認した。この作業によって、民事実体法と民事手続法の関係にも大きな示唆を得られた。 第三は、消費者集合訴訟制度も視野に入れて、将来給付の訴えの請求認容確定判決の既判力をめぐる議論の検討を行った。訴訟法上、差止請求の訴えは、現在原告が有している差止請求権に基づく給付の訴えであり、将来給付の訴えそのものではないと解されている。しかし、将来における実体法上の作為・不作為義務を求める差止請求は、将来の不確定要素を前提として給付判決を求めるものである。第一の作業で行った救済形成過程におけるフォーラム設定との関連のなかで、実体法上の権利との関わりを中心に検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、裁判実務が先行して認めている時間的に制限された差止めの理論的根拠を探ることを目的としている。また、現在の議論において、差止めにはフォーラムセッティング機能があるとされていることについて、その理論的根拠・実際的機能を明らかにすることも、本研究では研究目的に含めている。 この目的を達成するために、本研究では、①民事実体法理論と民事手続法理論からの複眼的な考察、②実際に裁判となった事案の分析、③憲法理論・行政法理論からの考察、④比較法的手法による考察という、四つの作業が必要となると位置づけている。本年度は、このうち、①として示した民事実体法理論と民事手続法理論からの複眼的な考察の基礎の一つとなる民事手続法理論の整理と検討と、③として示したうちの憲法理論に基づく考察の二つの作業を中心にして行った。 申請時の研究計画において、本年度は、救済法の視座に基づいた民事手続法学における議論の検討と、将来給付の訴えの請求認容判決の既判力をめぐる議論の検討に加え、訴訟上の和解をめぐる議論の検討を行うこととしていた。このうち、本年度は前二者の研究は実施した。しかし、そのうちの一つであるところの、救済法の視座に基づいた民事手続法学の議論の検討から、具体的な論点の検討に先んじて、民法と憲法の関係の整理・検討が必要となることが判明した。そこで、計画を変更し、本年度行う予定としていた訴訟上の和解をめぐる議論の検討に変えて、平成28年度に予定していた憲法理論の整理・検討を前倒しして本年度行った。訴訟上の和解をめぐる議論の検討は、平成28年度に行う予定である。 このように、本年度においては計画を変更したが、計画全体として、当初予定していた研究内容を変更するものではない。研究の進展に即して、検討・考察を行う順序を入れ替えたにとどまる。そのため、本年度の研究は、概ね計画通りに進んでいると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度の研究計画としては、次の二つの作業を行うこととしている。 第一は、民事保全手続における実体法上の権利の位置づけを巡る議論である。眺望利益に基づいて隣地上の建築工事の禁止を認めた仮処分決定である横浜地小田原支決平成21年4月6日判時2044号111頁は、フォーラムセッティング機能を差止めに託したとも理解しうる(宮澤俊昭「判批」速報判例解説6号359-360頁(2010年))。また、本案訴訟の提起を前提としている仮処分決定には、時間的制限の付された差止めとの類似性も認められる。そのため、民事保全手続と本案訴訟との関係、および民事保全手続のなかでの実体法上の権利の位置づけについて検討を加える必要がある。 第二は、民事執行手続における実体法上の権利の位置づけを巡る議論である。佐賀地裁平成20年判決および福岡高裁平成22年判決に対しては、無期限の開門を命じたうえで、因果関係のないことが明らかになったときに、被告側から請求異議の訴え(民事執行法35条1項)の提起を認めるという構成もありえたところである(宮澤俊昭「判批」速報判例解説5号329頁(2009年)、大塚直「判批」判評632号153頁(2011年)他)。このような法的構成の理論的可能性とその意味について、民事執行手続における実体法上の権利の位置づけを巡る議論も踏まえた検討が求められる。 いずれの問題についても、民事手続法学において、救済法的視座からの検討が進められているところであるため、本年度の研究を基礎として、差止めとの関わりで考察を進めていく。特に、民事執行手続に関わる議論の検討においては、判決機関と執行機関の分離という制度的な前提のもつ意義と問題点に着目をし、救済法という視点から進められている議論に特に着目をして考察を行う予定である。
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Causes of Carryover |
申請時の研究計画においては、本年度は、救済法の視座に基づいた民事手続法学における議論の検討と、将来給付の訴えの請求認容判決の既判力をめぐる議論の検討に加え、訴訟上の和解をめぐる議論の検討を行うこととしていた。しかし、研究の進展によって、先に平成28年度に予定していた民法と憲法の関係についての考察を行う必要が出たため、計画を入れ替えることとなった。訴訟上の和解をめぐる議論についての書籍購入などの資料収集に予定していた金額と、民法と憲法の関係についての書籍購入などの資料収集に予定していた金額とが異なっていたため、次年度使用額が生じることとなった。なお、当初予定では、訴訟上の和解についての予定していた金額の方が、民法と憲法の関係について予定していた金額よりも多いため、資料については、事前に予算の枠内で収集できる分については、収集を行った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額が生じた理由においても述べた通り、本年度予算の枠内で収集できる資料については、平成28年度に延期をした訴訟上の和解をめぐる議論の検討のために必要となる資料も、部分的には収集を行っている。また、次年度においては、訴訟上の和解についての検討・考察ではなく、保全手続、執行手続における救済法的な議論についての検討・考察を行う予定としている。そのため、次年度使用額として繰り越す分については、使用ルールにおいて可能な限度において、次年度に計画している研究内容に関わる資料ではなく、訴訟上の和解をめぐる検討に必要な資料を収集するための費用に充てる予定である。なお、研究の進展によっては、次年度の研究に必要となる場合もあり得る。その際には、やはり使用ルールにおいて可能な限度において、次年度の研究内容に資するように使用することもありうる。
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Research Products
(3 results)