2015 Fiscal Year Research-status Report
時間的に制限された差止めの理論的根拠と実際的機能―実体法・手続法からの立体的考察
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25380100
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
宮澤 俊昭 横浜国立大学, 国際社会科学研究院, 教授 (30368279)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 差止め / 公法と私法 / 実体法と手続法 / 間接強制 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、研究計画に沿って、次の二つ作業を行った。 第一は、民事保全手続における実体法上の権利の位置づけを巡る議論の検討である。仮処分決定に、フォーラム・セッティング機能を差止めに託したとも解しうる。また、本案訴訟の提起を前提としている仮処分決定には、時間的に制限された差止めとの類似性も認められる。そのため、民事保全手続と本案訴訟との関係、および民事保全手続のなかでの実体法上の権利の位置づけについて検討を行った。研究の具体的素材としている諫早湾開門紛争については、同一の当事者間での仮処分手続きと訴訟手続きの関係が問題となっているのではなく、異なる当事者間での仮処分手続きと訴訟手続きの関係が問題となっている。このように、社会的に見て一つの事案であるにもかかわらず異なる当事者間で別の民事手続きが進行している状態にあるなかで、時間的制限を差止めが付されていることの意味について、特にフォーラムセッティング機能という視点からの検討を行った。 第二は、民事執行手続における実体法上の権利の位置づけを巡る議論である。本研究の対象の一つである諫早湾開門紛争においては、福岡高判平成22年12月6日判時 2102 号 55 頁において、3年の猶予を設けたのちに5年間の開門が命じられたところであるが、この判決については、無期限の開門を命じたうえで、因果関係のないことが明らかになったときに、被告側から請求異議の訴え(民事執行法35条1項)の提起を認めるという構成もありうる。このような法的構成の理論的可能性とその意味について、民事執行手続における実体法上の権利の位置づけを巡る議論も踏まえた検討を行った。また前掲福岡高判平成22年12月6日の執行手続きにおいて現実に請求異議の訴えが提起されいるなか、間接強制金との関わりも問題となることが明らかになったため、この意義についても検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の具体的素材としている諫早湾開門紛争において、社会的に見て一つの事案であるにもかかわらず、漁業者と国との間での民事手続きと、営農者と国との間での民事手続きが進行している。現在、この三者の間で和解協議が進められているが、この和解協議は、時間を制限した差止めがきっかけとなって始められたわけではない。この意味から、本研究の具体的素材としている諫早湾開門紛争が、民事保全手続との関わりで差し止めのフォーラムセッティング機能を分析する対象としては適切なものではないことが明らかとなった。 執行法をめぐっては、間接強制決定をめぐって紛争が生じていることも明らかとなったため、この点についても実体法・手続法の両面から考察を加えた。次年度にその成果を公表する予定である。さらに、福岡高判平成22年12月6日判時2102号55頁の執行手続きにおいて現実に請求異議の訴えが提起されているところ、この請求異議の訴えが認められた場合に間接強制金を返還すべきかという問題が、和解協議の中で大きな意義を持つことが明らかとなった。この点についても、実体法と手続法の両面からの検討を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
第一は、訴訟上の和解に関する考察である。当初の計画では、平成26年度に行う予定であったが、研究の進展のなかで、平成28年度に予定していた憲法理論に基づいた考察を前倒しして行ったため、当初計画を変更して、訴訟上の和解に関する考察を平成28年度に行うこととしていた。諫早湾をめぐる紛争では、和解協議が始まったものの、国が、請求異議の訴えが認められた場合には支払った間接強制金の全額返還を求めると表明するなど、新たな法的課題が提示されている。和解協議の意義に加えて、このような新たな法的課題についても考察を加えていく。 第二が、総括的な考察である。平成25年度から進めてきた民事実体法理論、民事手続法理論、およひ憲法理論・行政法理論についての考察の結果を総合し、本研究の結論を導き出していくための考察を行う。
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Causes of Carryover |
学務との関わりで予定した出張を取りやめなければならなくなったため、次年度に出張を先延ばしした。この分の旅費を次年度に使用するため、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の前半に、本年度予定していた出張を組み込んで、繰り越した研究費を使用する予定である。
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Research Products
(1 results)