2014 Fiscal Year Research-status Report
判断能力不十分者の法主体性回復に向けた成年後見法制と事務管理法制の体系的再解釈
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25380113
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
菅 富美枝 法政大学, 経済学部, 教授 (50386380)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 本人意思尊重義務 / 自律の確保 / 自己決定支援 / 公序良俗違反 / vulnerable consumer / 消費者法 / 高齢者 / 制限行為能力制度 |
Outline of Annual Research Achievements |
第二年度にあたる平成26年度は、本研究全体のテーマ(総論)である「判断能力不十分者の法主体性回復」という問題について、第一の各論的考察として、契約法における実現可能性を問うべく研究を遂行した。 具体的には、従来の制限行為能力制度によらずに、判断能力の不十分な状態で締結された契約から本人を解放すべく、①これまで裁判実務上あまり拡張的に用いられることのなかった公序良俗違反無効を「関係や状況の濫用」の場面に用いることの理論的可能性、また、②現在法改正に向けて進行中の特定商取引法における「不招請勧誘規制」の強化、対象範囲の拡張、さらには民事効導入の可否について、主に日英比較という手法を用いて考察を行った。 これらの作業は、一見すると成年後見法制とは無関係なようにも見えるが、実際には、従来の法体制において一方的に「弱者」として保護されると同時に取引社会から排除されてきた人々を、一般的な「消費者」として価値中立的に市場に包摂した上で、むしろ現に生じている情報や交渉力等の格差の濫用を企てる事業者側を制御、排除することに力点を置いた手法の重要性に目を向けるものである。この点で、まさに法における判断能力不十分者の位置づけを体系的に見直すーー特定の範疇に属する者に恩恵的な保護を与えるのではなく、誰にとってもの「自律的意思決定の確保」を普遍的に提供するーーという本研究全体の主題・構想に直結するものである。 さらに、本研究の第二の各論にあたる事務管理体制について、学部生対象の教科書を執筆した。特に、コラムとして「判断能力不十分者の意向と本人の意思」を設け、従来、後見人の意思をもって「本人の意思」に代えてきた解釈に一石を投じた。 以上のように、総論のさらなる考察、二つの各論に関するさらなる検討を終え、今年度も着実な一歩を進めることができたと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
海外における現地調査が功を奏したことにより、本研究全体のテーマに直結する内容の論文を予定より早く発表することができた。また、二度の国際学会参加を通して、諸外国の研究者及び実務家との意見交換により、当初の議論の射程範囲を広げうる知見を、数多く得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の中間期にあたる今年度の外国調査、国際学会参加及び国内における文献研究、研究会開催を通して、制限行為能力制度に依ることなく、高齢者や知的・精神的、認知上の障害を有する人々が悪質・執拗・巧妙な事業者から保護されうる社会体制を具体的に見ることができた。そこで、最終年度にあたる平成27年度は、近い将来わが国において同・制限行為能力制度が廃止されることを見据えて、①不招請勧誘に関する事前規制、②不意打ち的・密室的な状況における契約締結を阻止する社会体制、さらには、③それでもなお意思決定の自律性が確保されない状況で締結された契約の有効性を争う手法などについて考察する。 具体的には、文献調査、オックスフォード大学における契約法及びヨーロッパ比較法研究所による消費者法ディスカッショングループへの継続的参加に加え、英国・地方自治体における消費者対策課に同行し、悪質な事業者の摘発、証拠収集、被害者救済に向けた一連の活動の実態調査を行う。 研究成果については、国際学会(国際消費者法学会、アムステルダム大学)において発表する予定である。また、フィンランド共和国司法省より、日本の成年後見制度及び制限行為能力制度の問題点に関する講演依頼を受けている。
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Causes of Carryover |
本研究最終年度である平成27年度は在外研究にあたっており、ヨーロッパを拠点に本研究を展開できるという好機にめぐまれている。そのため、平成26年度の支出を最小限に抑え、来るべき平成27年度の調査費に備えた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度4月1日から7月1日まで、オックスフォード大学における調査研究、オックスフォードにおける実態調査研究、及び、アムステルダム大学における国際消費者法学会における学会報告のための費用として、使用予定である。
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