2014 Fiscal Year Research-status Report
フランスにおける「良俗」概念の衰退と「人間の尊厳」概念の出現
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25380114
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
幡野 弘樹 立教大学, 法学部, 教授 (40397732)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 代理懐胎 / 国際情報交換 / フランス / ヨーロッパ / 公序良俗 / 人間の尊厳 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究課題は,1.フランスにおける「良俗」概念をめぐる現況の検討,2.フランスにおける「人間の尊厳」概念をめぐる現況の検討,そして,3.日本法への示唆というものであった。 これに対し,平成26年度の実績は,フランスにおける人間の尊厳概念の検討が中心となった。より具体的には,「代理懐胎の合意と公序」と題する論文の連載の2回目を公表するとともに,日本私法学会でも同じ題名での報告を行った。代理懐胎の合意が公序に反するのか,という点を検討する際に避けては通れない問題が,代理懐胎の合意が人間の尊厳に反するのかという問題である。この点について,とりわけ私法学会報告において,フランス生命倫理法が人間の尊厳というものに対してどういう位置づけを与えており,それをより具体化するルールがどのようなものであるのかについての一定の見通しを示すことができた。すなわち,生命倫理法により導入された民法典16条以下の規範は,人間の尊厳の保持という目的を頂点に据えつつも,同意原則,無償原則,匿名原則といった操作しやすい原則により,人体の不可侵性をできる限り保持しようとするものであるという見方を提示した。 その他,2013年にフランスで行った人身損害の賠償に関する講演の内容を日本語に直した論稿を公表することもできた。「人間の尊厳」という研究をする際には,人体を法がどのように評価するのかという点について多面的な検討が必要である。日本法の実収入を基準とした賠償算定基準について,理論的に整合しているのか,高齢化・国際化が進む中で十分に対応できているのかについて,批判的に考察した。また,フランスの相続法制を紹介するとともに,嫡出でない子の相続分に関する違憲決定の評釈を公表するなど,時代の変化とともに,相続法はどうあるべきか,相続法上の公序に変化はあるのか,という考察も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度も「代理懐胎の合意と公序」論文の連載を公表できたとともに,日本私法学会で報告も行うことができたという意味では,進展があった。ただし,当初の予定では,本年度は「良俗」について研究をする予定であったが,十分にできなかった。その意味では,完全に予定通りに進んでいるわけではない。それは,研究が進展するにつれ,「良俗」,「人間の尊厳」といった問題に正面から取り組むよりむしろ「代理懐胎」という具体的テーマを通じて「人間の尊厳」や「良俗」といった概念の像を照射する方がより有益であると考えたためである。おおむね順調に進展していると評価した理由は,課題に対するアプローチの仕方は変わってきてはいるが,とりわけ生命倫理分野における「人間の尊厳」概念の位置づけを明らかにするなど,成果自体は出ていると考えているためである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も「代理懐胎の合意と公序」論文を進展させることにより,「人間の尊厳」「良俗」といった概念の意味を考えることとしたい。当初の計画では,「良俗」概念の検討を行うこととなっていた。しかし,平成25年度,26年度の研究により,フランスにおける生命倫理法を理解するに当たっては,「人間の尊厳」概念およびそれを具体化する諸原則についての検討が重要であることが明らかになってきた。そこで,平成27年度も,引き続き「人間の尊厳」概念の検討を中心に行うこととする。「良俗」概念の検討については,それ自体大きなテーマであるので,無理に全貌を明らかにしようとはせずに,「人間の尊厳」についての検討に必要な範囲で一定の見通しを示すことを目指したい。
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Causes of Carryover |
2015年2月25日より3月3日までフランス出張を行ったが,その精算が2015年度となったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2015年度の予算として2015年2月のフランス出張の精算を行うが,次年度使用額とフランス出張の精算額はおおむね等しいため,2015年度の使用計画自体は,当初の計画を変更する必要はないと考えている。
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Research Products
(9 results)