2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25380120
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
田山 輝明 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (30063762)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
志村 武 関東学院大学, 法務研究科, 教授 (80257188)
山城 一真 早稲田大学, 法学学術院, 准教授 (00453986)
青木 仁美 早稲田大学, 法学学術院, 助手 (80612291)
橋本 有生 早稲田大学, 法学学術院, 助手 (90633470)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 成年後見 / 成年後見法の改正提言 / 世話法 / オーストリアの代弁人法 / 障害者権利条約 / 医療代諾権 / 国際研究者交流(ドイツ) / 国際研究者交流(オーストリア) |
Research Abstract |
「成年後見制度に関する具体的改正提言」というテーマのもとで、前年度からの研究と合わせて、成年後見制度の抱えている問題を、特に、障害者権利条約との関連を意識して研究を進め、当該年度においては、成年被後見人の選挙権問題について立法提言を行った。前年度までの成果は、すでに『成年後見制度と障害者権利条約』(三省堂、2012年)に一部を発表しており、公職選挙法11条1項1号を違憲・無効と主張する訴訟に協力し、「研究成果」を東京地方裁判所に提出することに同意していた。私たちの主張は、同裁判所の判決を経て、2013年の法律改正に結び着くことができた。ちなみに、法律改正に際しては、研究代表者が政府与党のプロジェクトチームに呼ばれて、意見を述べる機会を得た。同条同項の削除は私たちの主張と一致するものであった。 当該年度の9月には、早稲田大学法学部の「横川敏雄記念公開講座」(全5回)の場を借りて、研究成果の一部の発表を行った。その概要は、公的成年後見、未成年後見、成年後見人と医療代諾権をめぐる諸問題、後見人の民事責任と刑事責任、成年被後見人の選挙権回復訴訟、障害者権利条約と成年後見制度であった。講演者は、訴訟の関係と刑事法関係を除いて、私たちの研究グループのメンバーであった。 私たちの研究は、成年被後見人の選挙権問題の総括と次の重要課題である「成年後見人の医療代諾権」問題に移行しつつある。前者は、選挙制度の在り方に深く関連する問題であるので、成年後見制度とはやや距離ができつつある。これに対して、後者は、まさに成年後見人にとって喫緊の課題であるため、私たちの研究の中心は後者に移りつつある。医学の識見が重要になるため、専門家の協力を得ながら研究を開始している。また、比較法的研究にあたっても、それぞれの国おいて、医的治療の在り方や国民の意識などが異なるため、前提的研究をも行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
成年被後見人の選挙権問題については、選挙権回復訴訟との関連もあり、「当初の計画以上に進展している」と考えている。この問題は、裁判所(官)にとっても初めての判断であったため、諸外国ではどうであるか、という点が大いに気になっていたようである。その点は、担当裁判官の訴訟指揮にも表れていたとのことである。国会での政府委員の答弁では、法律改正に消極的であったが、政府与党の公職選挙法改正のためのプロジェクトチームでも、実際に当該類似規定を廃止した国において混乱が生じていない、という我々の研究成果に大きな関心がはらわれていた。法律改正が実現したことは大きな成果であった。 成年後見人の医療代諾権については、私たちの研究は、大きな方向性の確定に焦点を合わせている。まず、第一は、民法改正の方法によるべきか、特別法制定の形を取るべきか、である。これまでの研究では、成年後見人の権限との関係では、民法改正が必要になると思われるが、具体的手続きを含めてどこまで民法に規定するかは、今後の検討課題としたい。特別法の形をとる場合には、新しい制度の設立を伴うので、その点でも難しさが伴う。制度の設置・維持の費用と権限の問題である。その場合には、おそらくは、法律に基づいて、裁判所外に新しい行政的な審査制度(都道府県レベルの制度)を設けることになると思われる。 成年後見制度のその他の立法提案の中で、もっとも重要なものは、成年後見制度と障害者権利条約との整合性をめぐる問題である。この点についても、研究代表者の見解は、概略的に述べたことはあるが、障害者権利条約が批准された今日においては、喫緊の課題になりつつあるので、全体的な討議を経て、本格的な立法提案を行うための準備を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
第一には、成年後見人の医療代諾権に関する立法提言の策定である。これまでの研究成果、特に当研究費によって招請したドイツやオーストリアの研究者の講演に基づく論文等と私たちのグループの若手研究者の外国法研究の成果、および有力な日本の精神医学者による見解などを中心とした現時点までの研究成果を出版物として公刊する(三省堂を予定)。 第二に、内容的には、まず、この問題に関して民法改正を行う場合の問題点を、外国法の経験を踏まえて詳細に検討する。上記の二カ国についてはすでに概略が判明しているが、今年度は、ドイツ・オーストリアのみでなく、来年度にずれ込むかもしれないが、フランスやカナダのケベック州(フランス法地域)の検討も行いたい。アメリカやイギリスについても、従来通り継続的に実施する。 第三に、日本の現行民法の成年後見関連規定の改正提言については、狭義の成年後見制度の利用を狭める方向の改正を提言したい。障害者権利条約は、可能な限り、法定代理ではなく、サポート方式で行うべき旨を定めているからである。現行の成年後見人(狭義)は広範かつ包括的な法定代理権を有しており、このままでは、到底障害者権利条約の内容とは調和しえないと思われるからである。そのためには、現行法上の保佐制度の充実が前提となる。障害者等の権利擁護が不十分になってはならないからである。具体的には保佐人の権限の拡充である。その場合には、被保佐人の有する判断能力を前提として、これに対するサポートが中心になる。これらの点についても、研究代表者はグランドデザインを示しているが、実際上も大きな影響をもたらす改正になるので、慎重な検討が必要になる。この点では、ドイツとオーストリアの今後の対応も参考になる。なお、後見制度研究の原点に立ち返るという意味で、今年度は、歴史に学ぶ観点も重視したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
さらに購入希望の図書の額があったが、その額が残額では収まらなかったこと、次年度には歴史的な研究も行うので、コピー代などに使いたかったため。なお、青木助手の図書購入・複写費用発生の予定等を次年度に延期した。 今年度の購入希望図書の費用および、今年度行う歴史的研究の際に生じる複写費に充当する。昨年度に予定していた青木助手の支出予定に充当する。
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