2013 Fiscal Year Research-status Report
「国際的な子の奪取の民事上の側面に関するハーグ条約」批准における日本法の対応
Project/Area Number |
25380124
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
山口 亮子 京都産業大学, 法学部, 教授 (50293444)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ハーグ条約 / 子の奪取 / relocation / 共同監護 |
Research Abstract |
2013年6月に日本はハーグ子奪取条約を批准し、国内の実施法が成立した。本条約は家族の監護問題に積極的に介入するもので、日本法の制度に変更を迫るものではないものの、大きなインパクトを与えるものである。報告者はこの条約の内容および実施法の成立過程と解釈について、「ハーグ子奪取条約と「子の引渡し」」と題して論文を執筆し、京都家庭裁判所調査官研修にて講演を行った。特にインカミング・ケースにおける返還手続では、実施法に子の返還の代替執行が詳細に規定されており、国内の子奪取事件における直接強制へ影響があると考えられる。アウトゴーイング・ケースでは特に別居時に監護者指定がされた場合の非監護親の権利と監護権の居所指定権の範囲が従来のとらえ方では問題になる点を、日本の単独親権の解釈から検討した。 また、2013年6月の比較法学会「親権をめぐる比較法的課題」シンポジウムで「アメリカの親権法」を報告すると共に、論文を『戸籍時報』『比較法研究』『親権法の比較研究』に発表した。アメリカは国内事件でも監護権の有無に拘わらず子連れの無断転居が立法・判例法で制限されているが、それは非監護親と子の面会交流の権利と利益を保護するためである。裁判では主たる監護親の転居理由とその後の非監護親と子との交流の確保が目指されるかが審査される。立法では居所指定権が監護権の内容に含まれるのか否かが検討されなければならない。なお、アメリカ法はパレンスパトリエの思想の下、家族への国家の介入を許しているところに、ハーグ条約の理念に親和的であるという側面もあるものの、現実には司法・行政および民間の家族支援サービスにより、自律的に家族の問題を解決することのできる制度が整っていることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.ハーグ条約の国内法における研究の到達点: ハーグ条約実施法の成立過程資料と、国際私法学者および実務家によるこれまでの研究の蓄積から、ハーグ条約の内容と実施法を検討して、論文を執筆した。 2.ハーグ条約採択に至る過程: 邦語文献による調査を行ったが、1980年当時の諸外国が抱える問題点については、今後さらにアメリカ法研究の中で検討する。 3.実務における問題点: 現在、日本で子連れ無断転居が発生してしまう社会的・制度的理由と、従来の子の奪取に対する解決手段、そしてハーグ条約と日本における子の利益判断の相違等について論文を執筆中である。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 日本における国内の子の奪取事件の手続と審査基準が、ハーグ条約における考え方の枠組みとどう異なるのかを検討するとともに、日本法での家族への介入と子の利益のとらえ方の相違を明らかにし、論文を完成させる。 2.アメリカにおけるの国内法の子の監護権問題: アメリカ国内での無断転居の制限について、"relocation"といわれる分野の判例法の現代における変遷について研究していく。 3.アメリカにおけるハーグ条約の問題: 1980年のハーグ条約採択時と1988年のアメリカ批准時の国内の議論、およびハーグ条約に関する連邦最高裁をはじめとした諸判例について研究を行っていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ローエイシア国際会議がハーグ条約をテーマに2014年7月に札幌市で開催される予定であり、それに出席するため。 今年度アメリカ調査が中止になったために、来年度若干の繰越を行うため。 旅費:ローエイシア国際会議(札幌)3泊4日+学会参加費=130,000円 アメリカ研究調査予定12泊14日=330,000円(繰越分として当初計画+30,000円)
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Research Products
(8 results)