2015 Fiscal Year Research-status Report
越境地下水の統合的ガバナンス-比較法・国際法的考察-
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25380133
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
松本 充郎 大阪大学, 国際公共政策研究科, 准教授 (70380300)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 地表水 / 治水 / 利水 / 生態系保全 / 地下水 / エネルギー / 意思決定過程 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本については、治水・利水・環境の統合及び地表水及び地下水の統合、及び、意思決定過程の問題について研究成果を総括し、淀川水系において伏流水の過剰な利用が行われていること及び揚水式発電用ダムは治水用に転用可能性を確認した(「日本における持続可能な水ガバナンスのための法制度改革に向けて」行政法研究第12号167-204頁[2016年])。 米国については、コロラド川流域の米墨国境地域に焦点を当て、地表水利用の変化が越境地下水の賦存・利用に与える影響について検討した。インペリアル灌漑区は、電力を消費しつつ、米墨国境付近の導水路の漏水防止事業によって生じた「余剰水」を大都市に譲渡・輸送しているが、米国にとっての漏水防止は、メキシコにとっては地下水の涵養量の減少である。そこで、メキシコの利水者は漏水防止事業が地下水利用権侵害であるとして米国において訴訟を提起したが、2007年に事後的に制定された特別法に基づき請求は棄却されている。そこで、米墨国境付近の地下水の法的処遇について、国際法及び国内法の観点から文献調査及びヒアリング調査を行った。まず、2014年10月にカリフォルニア州法において導入された地下水採取規制が米墨国境付近の地下水採取に与える影響について、2015年9月に、カリフォルニア州においてヒアリング調査を行ったが、あまり影響はないと見込まれているとのことであった。 また、国際法について、2012年に米墨間で成立したMinute 319はHoover Damにおけるメキシコによるバンキングを認め、NGOと共同でパルス流及び最低流量を確保している。そこで、2015年9月と2016年3月に、アリゾナ州及びカリフォルニア州においてヒアリング調査を行い、Minute 319における国境線付近の地下水の処遇を確認したが、地下水への言及は全くなく、長期的な交渉課題であることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
3年を通してみると、当初の想定と若干異なる方向に研究が進んだものの、総合的には研究が概ね順調に進展した。当初の想定では、越境地下水の統合的ガバナンスの検討を契機として3つの知見得ることを目標としていた。まず、(i)日米の国内法の比較研究及び米墨・米加の二か国間の取り決めや実態を(可能であれば欧州も視野に入れて)検討し、日本の水政策全般への示唆を得る。また、(ii)法の支配を通じた国際法的秩序の構築について水ガバナンスに特化した見通しを得る。さらに、研究が順調に進展した場合には、(iii)国際法に関して、海洋法にも手を広げて東アジア地域に特化した知見を得る。 現実的には、(i)日米の国内法の比較研究及び米墨の二か国間の取り決めや実態を分析し、(ii)水ガバナンスについて法の支配を通じた国際法的秩序の構築について見通しを得るというところまで進んだ。(振り返ると当然だが)水政策の問題が、エネルギー政策と深い関連性を持ち、かつ、政策形成過程がガバナンスの実態に影響を与えることから、当初の想定とは異なり、これらの課題に取り組まざるを得なくなった。 具体的には、裁判所は、諫早湾潮受け堤防の開門調査の継続を命じているが(松本充郎「判批」『自治研究』第91 巻第3 号133-154 頁[2015 年])、開門調査の差止め仮処分決定も下しており、判決や決定の衝突という問題は、水ガバナンス及びエネルギー政策において生じる可能性があると指摘した(松本充郎「『現代の貧困』」瀧川裕英他編『逞しきリベラリストとその批判者たち』59-76頁[2015年]・松本充郎「日本における持続可能な水ガバナンスのための法制度改革に向けて」行政法研究12号167-204頁[2016年])。特に、水政策とエネルギー政策は決定手続が異なるため、衝突を生ずる可能性があり、調整方法の検討が必要であると考えるようになった。
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Strategy for Future Research Activity |
日米両国の水政策とエネルギー政策は、水力発電用の取水が河川の維持流量に影響を与えることや、夜間の原子力発電によって生み出された電力を揚水式発電によって貯蔵するという実務等において深く結びついている。さらに、米国国内法及び北米の国際法的研究においても、米国西海岸における高低差を伴う水輸送に係る電力の生産・消費の問題と、東海岸・中西部におけるシェールガス・オイルの生産活動に伴う地下水の水質汚染及びその規制の問題が、水政策及びエネルギー政策の関連性として注目されている。 そこで、新たな研究プロジェクトにおいては、水政策とエネルギー政策の関連性に関する日米比較法・国際法的研究という観点から、日米の比較研究を進める(可能な限り欧州の動向に関する把握にも努める)。まず、日本については、第1に、水系を絞って、原子力発電所の稼働状況と表裏一体の関係にある揚水式発電用ダムの治水転用の可能性を検討する。第2に、地熱発電のための地下水採取が地下水及び生態系に与える影響が懸念されていることから、地熱発電のための温泉採掘基準について検討する。 米国については、第1に、シェールガス・オイルの採掘の飲料水・地下水に与える影響等の現状を明らかにするため、CBD v. BLM(2013)及び2015年に環境保護庁が作成した報告書の内容を分析する。第2に、高レベル放射性廃棄物等の処分場設置が地下水の水質に与える影響について、NEI v. EPA等の裁判例や報告書の内容を分析する。第3に、コロラド川流域において、高低差を伴う水輸送に係る電力が質の悪い石炭火力発電所によって賄われており、太陽光発電等の再生可能エネルギーへの置き換えが検討されている。第4に、同流域では、Hoover Damをメキシコのために利用し、維持流量を確保する試みが継続している。これらの分析を通じて国際法及び国内法上の示唆を得る予定である。
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Causes of Carryover |
研究遂行上、必要不可欠な書籍であるDan Tarlock, Law of Water Rights and Resources (2015 ed)の納入が、4月以降にずれ込む見通しであったため、同書の購入に必要な金額を残した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
Dan Tarlock, Law of Water Rights and Resources (2015 ed)の納入により、本件の予算執行が終了する見込みである。
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Research Products
(5 results)