2014 Fiscal Year Research-status Report
福祉国家再編の政治的対立軸―社会的投資戦略とそのオルタナティヴ
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25380150
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
田中 拓道 一橋大学, 大学院社会学研究科, 准教授 (20333586)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 福祉国家 / 連帯 / 脱商品化 / 自由選択 / フランス / 社会運動 / 保守主義レジーム |
Outline of Annual Research Achievements |
2014年度の研究目的は、(1)「再商品化」と「脱商品化」の対抗にかんする理論枠組みの構築と政策類型の検討を完成させ、(2)1990年代後半からの福祉政策をめぐる政治過程の変化を「デモクラシーの変容」という観点から考察することであった。具体的には、イギリス、フランス、ドイツにおいて福祉政策が利害当事者から切り離され、首相直属の委員会などで、少数の専門家により決定されていく経緯を検討することであった。 (1)理論枠組みについては、福祉政策の基礎を理論的に検討し、「脱商品化」という概念を今日の文脈にあわせて修正する業績を刊行した(→単著『よい社会の探求』、論文「連帯の思想」)。以上によって「再商品化」「脱商品化」にかんする検討を終えた。さらにフランスの文脈に即して、「ワークフェア」(再商品化)と「自由選択」(新しい脱商品化)の違いが家族政策、反貧困政策にどう現れているかを検討した業績を刊行した(→社会政策学会共通論題報告、論文「フランスの社会政策思想と現代」)。 (2)デモクラシーの変容については、日独仏の福祉国家変容を比較し、それらが個人の就労・ライフスタイルの多様化に対応する形で変化を遂げつつも、市場の自由を重視する方向と、国家による再分配・サービス給付を強化する方向へと分岐していること、これらの分岐の背景に、労使関係の変容、反貧困・家族アソシエーションの政治参加の違いがあることを指摘する論文を執筆した(「保守主義レジームの多様性」)。この論文は2014年度中に学術図書の1章として公表されるはずであったが、編者の都合により刊行が遅れている(岩波書店より刊行予定、タイトル未定)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)2014年度の研究によって、「再商品化」「脱商品化」の対抗にかんする理論的検討と、政策類型の構築はほぼ終えることができた。以後、これらの用語に替えて「ワークフェア」と「自由選択」という語を用いることとする。「自由選択」にとって重要なことはたんなる商品化への対抗ではなく、就労からの一時的な離脱が許容され、賃労働以外の多様な就労・社会参画の場が保障され、働き方とライフスタイルの選択可能性が広がる、ということだからである。この語を軸として、就労支援、最低所得政策、家族政策にかんする類型を構築する作業も終えた。 (2)デモクラシーの変容にかんしては、フランス、イギリスでの資料調査によって、政党システムの変容、労使関係の変容、社会運動の影響力について重要な知見を得た。ドイツに関しては二次文献に依拠して調査を進めた。以上の作業をつうじて、イギリスでは左派政党の労組からの脱却が進み、首相官邸の権力が強まったのにたいし、ドイツでは家族政策において行政による当事者団体の意見集約が行われたこと、フランスでは家族アソシエーション、反貧困アソシエーションの政治参加が進み、必ずしも政治過程の集権化・閉鎖化が見られないことが明らかとなった。特にフランスで注目すべきは、ホームレス支援団体エマウス・フランスの代表者マルタン・イルシュが最低所得保障改革のイニシアティブを握っていたことである。これらの政策過程の違いが、とりわけ「新しい社会的リスク」に対応する就労支援・最低所得保障・家族政策の違いに反映したと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)研究上の新たな課題 研究を進めていくうえで、次の2点について修正が必要となった。第一に、2014年5月の欧州議会選挙で極右政党の伸張が目立ったとおり、極右・排外勢力は福祉国家の再編を考えるうえでも無視できない要因となっている。EU統合による「上から」の影響だけでなく、それに反発する「下から」の動き、すなわち各国極右政党の動向も視野に入れて研究を進める必要がある。第二に、できるかぎり日本を比較の視野に入れていくことである。統治構造の変容(政党の対立構造、執政府への権限集中)、「自由選択」を拡張する政策の少なさは、日本において際立っている。本研究の枠組みは、イギリス、フランス、ドイツのみならず日本にも適用可能であり、現在の日本型福祉国家の行きづまりを解明するうえでも、本研究の意義をさらに明確にするためにも、日本を比較の対象に含めて研究を進めることが望ましい。 (2)今後の方策 研究対象が広がりすぎないよう気をつけつつ、当面はEU社会政策のヨーロッパ諸国への影響について検討を進め、2015年度のうちに全体の研究をまとめる単著の執筆に着手する。以上の研究を総括する単著『自由選択社会への道』(仮題)を2016年度中に公刊することをめざす(勁草書房より刊行内諾済み)。
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