2015 Fiscal Year Research-status Report
福祉国家再編の政治的対立軸―社会的投資戦略とそのオルタナティヴ
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25380150
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
田中 拓道 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (20333586)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 福祉国家 / 社会的投資 / 自由選択 / ワークフェア / 保守主義レジーム / 社会的排除 / 脱商品化 / 比較政治 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年度の研究計画は、(1)福祉政策をめぐる決定過程の集権化がどう起こっているのかを、イギリス、フランス、ドイツに加えて日本も視野に含めつつ比較すること、(2)EUレベルでの「社会的投資」というアイディアが、各国の社会政策にどのような影響を与えたのかを検討することであった。 (1)デモクラシーの変容に関しては、日本、ドイツ、フランスの福祉国家再編を比較した論文「保守主義レジームの多様性」を刊行した。この中では、社会運動との連携を強化したフランス、トップダウン型の意思決定を強化したドイツ、どちらの動きも乏しい日本を対比し、政治過程の違いに応じた福祉国家再編の分岐を指摘した。さらにフランスと日本の最低所得保障改革を比較した論文「福祉政策における承認」を公刊し、同様の枠組みを用いて、手あつい最低生活保障を維持しているフランスと、給付引き締めへと向かっている日本を対比した。 (2)EUレベルでの「社会的投資」というアイディアの影響に関しては、このアイディアにもとづく2000年代の社会政策が、「投資と再分配のトレードオフ」を引き起こし、教育やスキルの乏しい者の排除を強めていることを指摘する論文「承認論の射程」を公刊した。この論文を含む編著『承認―社会哲学と社会政策の対話』では、EUやOECDの唱える「社会的投資」パラダイムと、ロールズやホネットの理論を参照した「承認」パラダイムを対比し、後者にもとづく社会政策(雇用政策、最低所得保障、教育政策、社会的包摂政策、障害者政策、多文化主義政策)の類型を構築しようと試みた。 (3)EUの移民問題と排外主義に関しては、フランスの事例に限定した内容であるが、福祉政策と移民政策の相互関係を考察した論文「フランスの福祉レジームと移民レジーム」を公刊した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの3年間の研究によって、当初の「再商品化」と「脱商品化」との対比というアイディアを修正し、「ワークフェア」と「自由選択」という政策類型の対抗関係を導き出すことができた。前者は公的社会支出を抑制しつつ、福祉の受給と就労義務の結びつきを強化する政策群であり、競争的な教育政策、就労促進的な家族政策とも結びつく。後者は就労活動のみならず、家庭内保育、NPO・コミュニティ活動などの多様な社会参画の選択肢を提供する政策群であり、乳幼児保育の自由選択、就労に特化しない社会的包摂政策などとも結びつく。 どちらの政策が採られるかは、福祉政策をめぐる「デモクラシー」のあり方によって左右される。これまでの研究では、イギリス、ドイツで採られたトップダウン式の改革と、フランス、スウェーデンで採られた社会運動との連携強化という違いが浮かびあがった。政治的な意思決定過程と福祉政策の対応関係は、とりわけ家族政策、雇用政策、反貧困政策において見いだせることも明らかとなった。 現在の課題としては、ヨーロッパで移民問題が浮上し、国内政治において排外主義を掲げる極右政党が伸張している点をどうこれまでの議論に組み込むか、という点がある。移民政策に関してはフランスの事例のみを検討したが、もう少し広く比較を行う必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる2016年度は、これまでの研究を総合し、日本、イギリス、アメリカ、フランス、ドイツ、スウェーデンの福祉国家再編を比較する単著『福祉国家の危機と再生―自由選択社会への道』(仮題、勁草書房)を年度内に発刊する予定である。研究上の課題としては、1980年代以降英米で形成されてきた「金融主導型レジーム」の概念をどう組み込むか、政党の党派性をどの程度重視するか、ヨーロッパでの極右政党の伸張をどう扱うか、日本での1990年代以降の政党の離合集散と、雇用・福祉改革の停滞をどう説明するか、といった点がある。これらの問いの一部は、次期の研究プロジェクトへと引きつぎつつ、とりあえずこれまで3年間の研究で明らかにできた点をまとめることにしたい。
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Causes of Carryover |
2016年度に研究のまとめとして発刊する単著の内容について、ドイツ、スウェーデン、イギリス、日本の専門家にチェックをお願いすることになり、そのための謝金を最終年度に用意する必要が生じたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2016年度に研究のまとめとして発刊する単著の内容について、ドイツ、スウェーデン、イギリス、日本の専門家にチェックをお願いし、次年度使用額はその謝金として支払う。
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