2015 Fiscal Year Research-status Report
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25380173
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
松浦 正孝 立教大学, 法学部, 教授 (20222292)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 財界 / 戦後政治 / アジア主義 / 賠償 / 経済復興 / 1960年体制 / 労働集約型ビジネス政治家 / 世話業 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、戦後の日本財界がどのように形成されたかを、日本の戦後復興や戦後賠償・対アジア経済援助などの現実の政治経済過程の中で明らかにし、財界内の権力構造、財界と国内政治・国際政治との関係を、具体的・構造的・学際的に解明することを最終的な目的とする。その際、財界を中心に戦前・戦時から戦後にかけて日本がアメリカの対日政策に如何に対応し、アジアとの関係をどのように構想したのかに留意するものとする。 本年度の第一目標は、初年度の先行業績・資料状況を整理・把握しながら、5つの方向性のうち実現できそうな方向性を探っていくことにあった。特に、第一に掲げていた池田成彬の評伝の準備が進展し、幕末から戦後に至る日本のグローバル、ナショナル、ローカルを貫いて重要な役割を果たした池田成彬の評伝を、父池田成章との関わりに重点を置いたファミリー・ヒストリーとして描くためのイメージと材料が固まった。また財界のみならず戦後政治の形成に、吉田茂・池田勇人・田中角栄らを通じて池田成彬が関与したことも発見できた。このために、山形県立図書館・市立米沢図書館や、国会図書館などでの調査、米沢市における財界関係者からの聞き取り、現地調査などが大きく役立った。 第二の大きな成果は、日本における財界について『立教法学』に「ビジネス・財界と政権のあいだ--第一次伊藤博文内閣から第三次安倍晋三内閣まで」と題する論考を刊行できたことにある。これと9月の台湾中央研究院での、「戦後日本財界與『大東亜共栄圏』経験」報告を通じて、政治史・政治学のみならず、経済史・アジア研究者などとの意見交換をすることができた。「労働集約型ビジネス政治家」などの概念提示により、アジアとの関係を分析する視座もできた。また国際日本文化研究センターでは、「財界人達の戦前・戦争・戦後――村田省蔵・藤山愛一郎・水野成夫とアジア主義」を報告することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」にも記したように、第三年度である本年度は、先行業績や資料状況を調査しながら資料渉猟を進め、本研究の理論的枠組みとなる見取り図を実証的データに基づきながら提示することが目標であった。第二年度に研究会報告で素描した「ビジネス・財界と政権のあいだ」を、学術論文としてまとめるために議論と概念を精緻化し、データの不備を補い、いくつもの新たな発見を加え、紀要に発表することができた。これは当初予定していた目標の多くを達成したものだということができる。 この論文で「ビッグビジネス政治家」「労働集約型ビジネス政治家」「ロビイスト政治家」という新たな概念を提示することに成功し、戦後政治・財界研究の新たな長期的視座が築けたことは、さらに新たな研究対象の視野を開くという予想外の成果であった。 また、当初の目標であった、幕末から戦後までの財界の確立という長期的見通しを持った歴史像を提示することが、池田成彬評伝準備の進展によってかなり現実性を帯びて来たことも、大きな成果である。これらは、予想外の研究の進展である。 その一方で、『立教法学』の「ビジネス・財界と政権のあいだ」で、財界人の「大東亜共栄圏」体験が吉田路線への賛否や戦後政治のあり方と関わる財界人内部での帰趨を分けた点を指摘したことは大きな発見であったものの、戦後復興や戦後賠償、対アジア経済援助、対米経済関係など具体的プロセスとの関わりにおいて戦後財界のあり方を探るという、本研究のもう一つの目標については、やや遅れている。その大きな一因は本プロジェクトの大幅な予算削減であり、海外調査や新たな経済史分析の展開は、現状の予算・時間などの制約の下では至難であるため、新たに研究プロジェクトを立てて出直した方が良いようにも思われる。こうした問題を他日に回したとしてもなお、今回これまでに得られた新たな知見は大きなものであった。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の報告書でも記したが、予算削減などの関係でアメリカでの資料調査が困難になったことは残念であるが、将来の調査を目指して、引き続き、国内でも可能な資料調査のための準備は進めて他日を期すこととしたい。 研究計画で大事なことは、成果の出せる部分できちんと結果を出すことであるから、当初の計画に則り、平成28年度明けに予定している池田成彬評伝の刊行を、できるだけ予定通り行えるよう、最優先で準備したい。 本研究を通じ、歴史的な枠組みが日本における財界形成のありかたを方向づけていることが、次第に強く認識された。このため、上記と並行して、学部の演習・授業や研究会を通じ、戦前と戦後の財界の生成過程についての理論的な枠組みについて、人物伝的な試論として描く準備も進めていきたい。 アジアとの関係については、財界人・政治家のアジア主義との関わりを探りつつ、「労働集約型ビジネス政治家」の人物的研究によるデータ収集を進めることで、確かな視角と理論の方向を探る。これについては昨年度も書いたとおり、成果を急ぐことなく、地道で十分な基礎的研究を続けていきたい。昨年度末より始めた議員データ収集・分析の作業の中で、引き続き、「大東亜共栄圏」体験、サルベージなど賠償産業、抑留体験、工兵体験、原料・市場動機など因子パターンや切り口を見つけ、分析を進めたい。
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Causes of Carryover |
本年度執行において研究遂行に必要な支出が十分なされたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前年度未使用額および本年度支払請求額は、物品費・旅費・謝金・その他で使用する。
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[Book] アジア・太平洋戦争辞典2015
Author(s)
吉田裕・伊香俊哉・高岡裕之・森武麿編集 吉田裕・伊香俊哉・高岡裕之・森武麿・松浦正孝他著
Total Pages
827(11,31-32,33-34,35,36,37,54,105-106,122等計25頁)
Publisher
吉川弘文館
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