2014 Fiscal Year Research-status Report
韓国の地域社会における市民事業の展開とローカル・ガバナンスに関する研究
Project/Area Number |
25380181
|
Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
文 京洙 立命館大学, 国際関係学部, 教授 (70230026)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 社会的経済 / 協同組合 / ローカル・ガバナンス / 韓国 / 朴元淳 / ソーシャル・ビジネス |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は、まず、平成26年度の調査結果や日本や諸外国のデータや事例の分析を深めることを通してローカル・ガバナンス研究のための枠組みを整理し、調査対象としては、①済州道についての補足調査と、②新たにソウルの韓国ソウル市が設立した社会的企業・協同組合の中間支援組織における市民・行政・企業間のガバナンスの在り方について調査した。③さらに日本の敗戦直後の在日朝鮮人の貧困や協同組合運動について調査した。 済州道では、大韓民国建国期の住民虐殺(四・三事件)の真相究明をめぐる民間での取り組みと中央・地方の行政の矛盾を含んだガバナンスの問題を、そうしたガバナンスの結晶として『済州四・三事件真相調査報告書』の成立過程について関係者の証言と資料を通じて検証した。さらに、同調査報告書の日本語版の翻訳が、四・三平和財団(中央政府と地方政府が財政支援する公益財団)と国立済州大学校在日済州人研究センター、民間の済州四・三研究所などの協力で取り組まれたが、これに監修者として参加し、ある種の独立行政法人を中心としたガバナンスについて直接体験し、その実態について検証した。 ソウル市では、2011年10月の市長補欠選挙で、市民運動出身で社会的企業などを実戦経験の豊富な市民派の朴元淳市長が誕生したことによって地域再生・創造をめぐるガバナンスの先進的取り組みが積み上げられてきた。このソウル市が設立した「社会的経済支援センター」は、ひろく市民事業に取り組んできた市民活動家を中心とする社会的企業・協同組合の中間支援組織として、この間、社会的企業や協同組合、マウル(町や村の意味)企業など社会的経済の多様な主体の設立を支援してきた。さらにソウル市は、毎年数兆ウォン規模の、社会的経済育成のための公共調達の予算を設定するなどして社会的企業・協同組合を支援し、ローカル・ガバナンスの新しい地平を切り開いている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、①90年代以来の市民事業やガバナンスにまつわる、市民主導の規範形成の過程とその特徴を、関係者への取材や文献・資料を通して明らかにすること、②こうした確定した制度規範が、実際にどのように運用され、実践されているかを、市民事業をめぐるガバナンスに関する実態調査(ソウル市、清州市、洪城郡、完州郡、済州市))を通じて明らかにすること、③既存の諸研究を踏まえたローカルガバナンスをめぐる国際比較(とりわけ日本との比較)を通して理論形成や類型論の確定を課題としている。 だが、②の実態調査について、ソウル市、清州などについては調査が進展したが、洪城郡、完州郡などについては、学内役職などに伴って長期の滞在調査が困難であったために充分にすすんでいない。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成26年度に集中的に調査研究を実施したソウル市の事例は、ローカル・ガバナンスをめぐる最も先進的な事例として、その理論化や類型化は、比較研究の一つの軸を形成するものと考えられる。 今後の研究としては、平成26年度に果たし得なかった地域調査を進めるととともに、市民事業の展開状況、行政の役割や意思形成の特徴、ソーシャルキャピタルや住民自治の伝統、地場産業・金融の性格や役割などに着目してガバナンスの類型や発展のための条件について、日本での事例に関するデータや文献資料を参照しつつ検討したい。 さらに既存の諸研究を踏まえたローカルガバナンスをめぐるこれらの理論的探究を通じて、ハーバマスなどの公共圏理論では政治システムや市場システムと対立的に捉えられていた市民社会をめぐる議論の再検証を試みたい。
|
Causes of Carryover |
韓国での調査予定の地域がソウルと済州のみ限られ、清州市(忠清北道)、洪城郡(忠清南道)などの調査が実現しなかった。これらの地域の調査を今年度に実施する。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
主として、平成26年度に実施できなかった地域の調査と、国際比較のため 韓国以外(米国を考えている)調査費用として使用する。
|